心筋再生医療に新手法―柔らかい足場で効率よく細胞培養:筑波大学ほか
(2020年8月28日発表)
筑波大学は8月28日、動脈硬化などで弱った心筋細胞を蘇らせる再生医療の新手法を見出だしたと発表した。心臓に存在する心筋以外の線維芽細胞に特殊な遺伝子を導入して元気な心筋細胞を生み出す際に、心臓と同程度の柔らかい基盤を足場として使うことで心筋細胞が効率よく作り出せることを突き止めた。再生医療で注目されているiPS細胞を必要としない心臓再生法の確立につながると期待している。
発見したのは、筑波大医学医療系の家田真樹教授、貞廣威太郎講師らの研究グループ。これまで、心臓の線維芽細胞に導入することで線維芽細胞を心筋細胞に変化させられる複数の心筋誘導遺伝子を発見、再生医療への応用の可能性について調べていた。
今回、心筋誘導遺伝子を導入した線維芽細胞が心筋細胞に変化する際に、培養皿よりもマウスの体内で培養した方がより成熟した心筋細胞ができることに注目、その理由を詳しく分析した。その結果、心筋細胞が増殖するための足場となる基質の硬さが影響していることが分かった。基質は栄養分を供給するために不可欠なものだが、心臓と同等の柔らかい基質を用いたところ心筋細胞への誘導効率が飛躍的に上昇し、成熟した心筋細胞が効率よく作れることが分かった。
さらに、硬い基質を使用した場合に細胞内で何が起きているかを詳しく分析。その結果、細胞内で働く遺伝子やそれによって作られるたんぱく質が基質の硬さによって異なり、硬いと心筋細胞への誘導が阻害されるメカニズムを分子レベルで突き止めた。一方、生体心臓と同等の柔らかい基質を用いた培養皿を使ってこれらの阻害要因を取り除くと、拍動する成熟した心筋細胞への誘導効率が15%にまで向上した。
このため研究グループは、今回の成果について「心筋梗塞や拡張型心筋症など、心臓が硬い線維化組織に置換されるさまざまな心臓疾患への再生医療への応用が期待される」と話している。