酸素呼吸に必要なATP産生能力―進化過程で2回以上失われる:筑波大学
(2020年9月2日発表)
筑波大学は9月2日、酸素呼吸にとって重要な真核生物の細胞内小器官「ミトコンドリア」のATP(アデノシン三リン酸)産生能力は進化の過程で少なくとも2回失われたことが分かったと発表した。酸素呼吸でエネルギーを得る真核生物の繁栄を実現したミトコンドリア機能の進化が想像以上に複雑だったことを示唆しているという。
筑波大生命環境系の矢﨑裕規研究員(現在は理化学研究所に在籍)と同計算科学研究センター稲垣祐司教授らの研究グループが明らかにした。
ミトコンドリアはヒトを含むほぼ全ての真核生物の細胞内に存在し、酸素呼吸に不可欠なATPを作っている。酸素を生命維持に使えるよう進化したことが現在の真核生物の繁栄につながっている。
研究グループは、そのカギを握るATP産生能力がどのように進化したかを調べるため、進化の系統的位置が不明確な“みなしご生物”といわれる単細胞真核生物バルセロナ類を遺伝子レベルで詳しく解析した。
まず、バルセロナ類の遺伝物質「メッセンジャーRNA」の塩基配列を網羅的に調べて大規模な分子系統解析を進めたところ、ミトコンドリアでATP作りに関わるたんぱく質群は見つからなかった。この結果は、バルセロナ類の生存に不可欠なATPが細胞質で作られていることを示唆しているという。
ATP産生能力のないミトコンドリアは、これまでランブル鞭毛(べんもう)虫と呼ばれる微生物とその近縁種で見つかっている。ただ、今回の解析対象にしたバルセロナ類はそのいずれとも系統的に近縁にはなく、進化の過程で独自に細胞質によるATP産生を確立したとみている。
これらの結果から、研究グループは今回詳しく調べたバルセロナ類が「ATP産生能力を二次的に失った」と推測、真核生物の進化の過程でATP産生能力が少なくとも2回失われたとみている。