悪性リンパ腫の免疫に対する抵抗性獲得の仕組み解明―がんの免疫抵抗性を打破する治療法に光明:筑波大学ほか
(2020年9月14日発表)
筑波大学と慶応義塾大学の共同研究グループは9月14日、悪性リンパ腫が免疫システムに対して抵抗性を獲得する仕組みを解明したと発表した。免疫抵抗性を打破する知見も得られたことから、予後不良の悪性リンパ腫の治療法の改善が期待されるという。
近年、がんに対する新しい治療法として、がん細胞が免疫の攻撃から身を守るのを阻害する「免疫チェックポイント阻害剤」による免疫療法が注目されている。この免疫療法では、免疫T細胞が様々な方法でがん細胞を攻撃し、最終的に細胞を溶解したり、細胞死(アポトーシス)を誘導してがん細胞を滅ぼす。
この攻撃の一つがFas誘導アポトーシスと呼ばれる細胞死で、Fasは細胞死を誘導する細胞膜分子を指す。ただ、Fasを発現したがん細胞が生体内で免疫の攻撃に対してどのように抵抗するのか、その詳細な仕組みはほとんどわかっていなかった。
研究グループはまず、高分化型B細胞由来のリンパ腫を患ったマウスを開発し、発症の過程を分子レベルで解析した。その結果、Fasの発現低下がリンパ腫の発症と維持に重要であることを見出した。B細胞の分化に関わる分子CD40をリンパ腫細胞で活性化すると、Fasの発現が回復することもわかった。
一方、ヒトリンパ腫の一部の細胞株ではアポトーシス阻害分子Livinが高発現しており、Fasを再活性化してもアポトーシスに抵抗性を示すことが分かった。また、悪性リンパ腫のバーキットリンパ腫、および、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の患者において、Fas低発現とLivin高発現が予後不良と強い相関性を示すことを見出した。
そこで研究グループは、Livinを標的とした阻害剤をLivin高発現リンパ腫細胞に投与し、Fas誘導アポトーシスが有意に増加することをヒト細胞株とマウスモデルで確認した。
これらの結果から、Livinを標的とした治療法は、Fas誘導アポトーシスによるがん免疫の効果を高める非常に有望な治療法になりえることが明らかになったとしている。
今回の発見は、リンパ腫に限らず広範ながん種に対するがん免疫抵抗性の仕組みの解明につながることが期待されるという。