脳の正常な発達促す―酵素の働き解明:筑波大学ほか
(2020年9月16日発表)
筑波大学は9月16日、脳の正常な発達に特定の酵素「アルギニンメチル化酵素(PRMT1)」が重要な役割を果たしていることを突き止めたと発表した。この酵素を作る遺伝子を人為的に欠損させたマウスを作製、同酵素が脳の炎症を抑えて正常な脳の発達を促している可能性を明らかにした。
筑波大の深水昭吉教授と橋本美涼博士(現・岐阜大学助教)の研究グループが、神戸大学や英エジンバラ大学との共同研究で明らかにした。
発達期の脳の炎症は、脳の損傷や胎児期の母体の感染などによって引き起こされ、脳の発達に深刻なダメージを与えることが知られている。中でもアルギニンメチル化酵素を作れない傷害があると、脳の神経細胞を覆う鞘状組織「ミエリン」がうまく作られないなど脳が正常に発達せず、生後2週間ほどで死んでしまうことがマウスによる実験で分かっていた。
研究チームはその原因を調べるため、アルギニンメチル化酵素を作る遺伝子を欠いたマウスを人為的に作り、その脳の中でどのような遺伝子が働いているかをすべて調べるという網羅的な解析を試みた。その結果、炎症性サイトカインやその受容体など炎症に関与する物質を作る遺伝子の働きが高まっており、それが脳の発達と共に強まっていく様子も明らかになった。また、このマウスの脳組織を詳しく解析した結果、脳の損傷や自閉症、神経性疾患に関与することが知られているグリア細胞(活性化型アストロサイトやミクログリア)が異常に増加していることが分かった。
この結果について、研究グループは「アルギニンメチル化酵素を欠損すると、神経幹細胞がアストロサイトなどを生み出すステップのどこかで炎症状態を誘導することが分かった」として、今後はその変化をもたらすメチル化の標的を解明することで同酵素の機能をさらに深く理解できるとみている。