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高い強誘電性を示す窒化物強誘電体の薄膜を作製―消費電力の少ない不揮発性メモリの開発に道開く:東京工業大学/産業技術総合研究所ほか

(2020年9月19日発表)

 東京工業大学と(国)産業技術総合研究所、東北大学の共同研究グループは9月19日、強誘電体の中で最も高い強誘電性を持つとされる窒化アルミニウムスカンジウムのスカンジウムを低濃度にすることによって、従来よりも高い強誘電性を発現する膜を作ることに成功したと発表した。また、膜厚10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以下の薄膜でも強誘電性があることを確認したという。

 窒化アルミニウムスカンジウムによる、低消費電力の新たな不揮発性メモリの開発に道を開く成果が得られたとしている。

 強誘電体は、誘電性をはじめ圧電性、焦電性を兼ね備えた誘電体で、電圧の印加方向によって結晶に2通りの安定な分極状態があり、電源から切り離しても分極状態を保つ。

 この強誘電体を用いたメモリは、低い消費電力で動作し、データの保存に電力をほとんど消費しない不揮発性であり、かつ高速動作することから、「理想のメモリ」「究極のメモリ」と考えられ、長年精力的に研究開発されてきた。

 しかし、これまで取り扱われてきた強誘電体物質は、膜製作が難しい、強誘電性が小さい、制御法が難しい、などの課題を抱えていた。メモリを低消費電力で動作させるには強誘電体を薄くすることが不可欠で、従来はこの薄膜化が難しかった。

 また、強誘電体には薄膜化すると強誘電性が失われる「サイズ効果」があり、注目の窒化アルミニウムスカンジウムがメモリとして使用可能かどうか不明だった。

 研究グループは今回、ガス化したスカンジウム(Sc)とアルミニウム(Al)の金属を窒素ガスと反応させて、スカンジウムとアルミニウムの比〔Sc/(Sc+Al)比〕が異なる数種類の窒化アルミニウムスカンジウムを作製した。

 その結果、これまでのものと比べて、Sc/(Sc+Al)比が小さく、かつ電源を切り離したときに残る静電容量(残留分極値)が大きい、強誘電性を有する膜を得ることに成功した。また、Sc/(Sc+Al)比を小さくする、つまりスカンジウムの濃度を低くすることで、分極状態を繰り返し反転させても、2つの状態の間で安定した行き来を実現できることを見出した。 

 これまで課題とされてきた低消費電力化に必要な薄膜化については、膜厚を従来の約3分の1にしても高い強誘電性が維持されることを見出し、膜厚9nmでも強誘電性を発現することをプローブ顕微鏡による観測により世界で初めて確認した。

 これにより、強誘電体の膜作成の低コスト化が図れるとともに、低消費電力で動作するIoT用の不揮発メモリの実現が期待されるとしている。