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表面増強ラマン分光法の実用性・信頼性を向上―分析化学の約50年来の難問を解決:東京大学/産業技術総合研究所ほか

(2020年9月24日発表)

 東京大学と(国)産業技術総合研究所などの研究グループは9月24日、様々な分野で有力な分析手法として期待されながら、多くの難点を抱えていた「表面増強ラマン分光法」の感度を大幅に高めるとともに、様々な難点を解消することに成功したと発表した。分析化学の約50年来の難問が解決されたとしている。

 表面増強ラマン分光法(SERS)は分析化学などに欠かせないラマン分光法の一種。

 ラマン分光法は、物質に光を入射した際に、光が物質と相互作用することで放出される、入射光と異なる波長を持つラマン散乱光を計測することで、分子レベルの構造を解析する手法。貴金属などの表面に分子が吸着した際に、ラマン散乱の強度が大きく増幅される現象を利用したのがSERS。

 SERSは1970年代に発見されたもので、金属基板上の局在表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象により、通常のラマン分光法より数桁以上高い感度を提供できることから、以来微量分析に利用されているが、再現性、均一性、生体適合性、耐久性、光熱の影響などに課題があり、生体分子への応用は難しいといった問題を抱えていた。

 研究グループは今回、多孔質炭素ナノワイヤを配列した、金属を一切使わないナノ構造体でSERS基板を作製することにより、局在表面プラズモン共鳴を使わずに高感度化し、約6桁の感度増強を達成した。さらに、極めて高い再現性、均一性、生体適合性、耐久性なども併せて実現した。

 開発した新技術は、高い実用性と信頼性を備えており、分析化学、食品科学、薬学、病理学など多岐にわたる学術分野をはじめ、感染症検査、糖尿病検査、がん検診、環境調査、科学捜査などでの微量分析に有用としている。