目的のたんぱく質の量をありのままの姿で操る手法を開発―遺伝子治療や細胞治療など、これからの医学利用に期待:筑波大学
(2020年10月1日発表)
筑波大学生命環境系の宮前友策准教授のチームは10月1日、生体にとって重要なたんぱく質の細胞内の量を、混ざりもののない状態にコントロールする手法の開発に成功したと発表した。基礎生物学はもとより、遺伝子治療や細胞治療などへの応用が期待される。
たんぱく質は血液や筋肉、臓器などを作り、生命維持に欠かせない主要な成分として知られる。その機能や役割を調べるために細胞内の量を操る手法が使われてきた。
代表的なのがたんぱく質の遺伝子を欠損(ノックアウト)させる手法だが、効果が現れるまでに時間がかかることや、研究の手順をさかのぼれないなどの欠点があった。代わりに低分子薬剤を使う手法は、迅速で正確なコントロールができることから注目されている。
研究チームは、分解誘発分子(DD)を使って細胞の中の目的たんぱく質の量をありのままの姿で操れる技術を探ってきた。
分解誘発分子はその名の通り不安定化を早め、細胞内で速やかに分解される働きをする。一方、低分子薬剤を与えると、分解誘発分子とたんぱく質の構造が安定し分解しなくなる。つまり低分子薬剤はたんぱく質発現のためのスイッチの働きをする。
目的のたんぱく質を分解誘発分子と融合させると低分子薬剤でコントロールできる。しかし恒久的に融合させると、細胞が本来持つたんぱく質とは異なる状態になり、その構造の保持や機能に影響が出てしまう心配がある。
研究チームはこの問題を解決するために、巧妙な「ユビキチン」の利用を考えた。ユビキチンは多数のアミノ酸が連なった化合物で、たんぱく質が分解される時の目印として働く。
まずユビキチンは一時的にたんぱく質に結合する。たんぱく質の分解が終わると、そのたんぱく質から出る酵素(脱ユビキチン化酵素)によって切断される。酵素は細胞内に豊富にあるため、分解誘発分子の前にユビキチン分子が切断されてしまい、制御を失ってしまうという心配があった。
そこでユビキチンの末端配列の75番目のGly(グリシン)を変異させることで、酵素による切断を15分から30分程度遅らせることに成功した。
このユビキチンを分解誘発分子と目的たんぱく質の間に挿入すると、低分子薬剤がない場合にはたんぱく質が速やかに分解される。低分子薬剤を与えるといったん安定化したあと、脱ユビキチン化酵素の働きで他の分子などの邪魔者がない“ありのまま”の状態で発現させることに成功した。
これによって分解誘発分子は低分子薬剤を与えることで、目的たんぱく質の発現を薬剤の投与量に応じてコントロールできることが証明された。