第6世代向けの大容量な磁気記録技術を開発―ミリ波とナノ磁性粒子を併用し実現:東京大学/大阪大学/筑波大学ほか
(2020年10月1日発表)
東京大学と大阪大学、筑波大学、富士フィルム(株)、(株)日立ハイテクの共同研究グループは10月1日、ミリ波を用いた新しい磁気記録方式を開発したと発表した。微小なナノ磁性粒子を用いた高密度な磁気記録媒体の実現に道を開く成果で、記録容量の著しい向上が期待されるという。
磁気記録メディアの一つとして磁気テープが古くから利用されているが、大量の情報を安価に長期間保存できることから近年クラウドや業務用データアーカイブとして活発に利用されており、保険会社や銀行、放送局をはじめ様々な分野で需要が増えている。
研究グループはこの需要にこたえるため、磁気テープの記録容量の増大を目指し、波長の短いミリ波を用いた新たな記録方式「集光型ミリ波アシスト磁気記録」と名付けられた技術を開発した。この新技術の要はミリ波の利用と新磁性材料であるイプシロン酸化鉄の利用。
ミリ波は波長が1~10mm、周波数が30~300GHz(ギガヘルツ、1GHzは10億Hz)の電磁波で、「5G」(第5世代移動通信システム)で規格化されている電磁波よりも短波長で周波数が高い。現在、車載用レーダーなどで用いられているが、5Gに続く6GなどのBeyond 5Gでミリ波の本格的利用が見込まれている。新技術ではこのミリ波を集光し、磁性フィルムの磁気粒子に照射する。
磁性粒子のイプシロン酸化鉄は、研究グループのメンバーが先に合成に成功した、これまでの磁性粒子よりも微細なナノサイズの磁性材料。通常の結晶相とは異なる結晶構造をしており、高周波ミリ波を吸収する。
研究グループは今回、イプシロン酸化鉄を磁性粉に用いた磁性フィルムを作製するとともに、高強度の集光型ミリ波発生装置を開発し、ミリ波磁気記録の検証実験を実施した。
その結果、磁性フィルムへの集光型ミリ波の照射によって磁極方向が反転し、書き込みを確認できたという。ミリ波照射による磁極反転の観測は世界で初めてとしている。
磁気記録容量を向上させるため磁性粒子を小さくすると、磁化の熱不安定性が増す。これを回避するため磁性体の磁気異方性を大きくすると、今度は磁気記録ヘッドでの磁場書き込みができなくなるという問題が生じる。
これは「磁気記録トリレンマ」と呼ばれているが、ミリ波磁気記録ではこの問題が解決されるため、微小なサイズの磁性粒子を用いたBeyond 5Gの磁気記録の実現可能性が示されたとしている。