人工光合成による海水分解で、マンガン修飾の電極が酸素を効率良く発生―太陽光による水素製造技術の実用化にも期待:産業技術総合研究所
(2020年10月8日発表)
(国)産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センターは10月8日、酸化物半導体にマンガンを修飾した光電極に太陽光を照射すると、食塩水の分解の際に有害な副産物を抑えて酸素だけを取り出せる新たな人工光合成技術を開発したと発表した。海水を利用した低コストの水素、酸素の製造の実用化につながる。植物などが天然光合成をする際に、進化の過程でなぜマンガンを選択したかの謎を解くカギとなる可能性があり、基礎的な解明にもなりうる。
光触媒を使って水を分解し水素と酸素を作る技術は、低コストでクリーンな製造方法として将来の水素社会に向けて大きな期待されている。さらなる低コスト化には無尽蔵にある海水の利用が必要になる。
そこで障害になるのが、反応の副産物として発生する有害な次亜塩素酸をいかに抑えるかだ。次亜塩素酸は生物にとって有害であるばかりか、製造システムを腐食劣化させてしまう厄介者でもある。
産総研はこれまでに、人工光合成の実用化に向けて酸化物半導体(酸化タングステン、バナジン酸ビスマス)の光電極を独自に開発してきた。今回はこの光電極の表面を部分的にマンガン酸化物で加工し、触媒としての効率を上げ、水を分解する水素製造システムの高度化に取り組んだ。
光電極の作成方法は、タングステンイオンまたはビスマスイオンとバナジウムイオンを含む溶液を、導電性ガラスに落とし高速回転させながら塗り、焼き固めて薄膜を作った。さらにその上にマンガンなどの金属イオンを含む溶液を塗布し、焼き固めて新たな光電極とした。
この光電極と対極(白金電極)をイオン交換膜で分離した2室型の反応容器に配置し、塩水を含む反応溶液で還元・酸化による水素と酸素の生成能力などを調べた。
その結果、マンガンで表面を覆った光電極を使うと次亜塩素酸の生成がほとんどなく酸素だけが発生し、白金電極では水素が発生した。水素イオン濃度や塩素濃度を変えたり、カルシウムを複合させた異種金属を使ったりしてもこの反応は変わらなかった。
海水中には塩素の他にマグネシウムやカルシウム、カリウムなど多種多様な共存イオンが含まれているが、それでも同じような反応が再現できることを確認した。
この成果は、太陽光を使った海水からの水素製造技術の実用化に大きく前進させるとともに、植物などの天然光合成の基礎的な理解を深めることにもつながるとみている。
生物にも製造システムにも有害な次亜塩素酸の発生を抑えるマンガンの特異な性質が、複雑な天然光合成反応による酸素発生中心の進化に関与している、との新たな仮説も提唱している。