葉が実を守る ミヤマニガウリの「温室」を発見―山形・月山の自然観察ガイドの発見が、英国の論文誌に掲載:京都大学/森林総合研究所
(2020年10月15日発表)
下からのぞいた「温室」
(撮影:直江 将司(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 東北支所 森林生態研究グループ))
京都大学生態学研究センターと(国)森林総合研究所は10月15日、ミヤマニガウリの葉が花や実を包んで寒さから守る珍しい「緑の温室」の働きを発見したと発表した。植物の葉はこれまで光合成作用をするものとみられ、開花や結実のための役割は知られていなかった。一方で「温室」は昆虫の飛来を妨げてしまうため、植物の交配にどんな影響を与えるかが新たな関心事に浮上している。
ミヤマニガウリはウリ科の1年草で、盛夏に開花する。花には長い花柄(かへい)があり1つずつ離れて咲く。秋には短い花柄の花が茎の先端に固まって咲く。さらに季節が進むと花の周辺の葉が広がり、重なり合って実を包み込んで「温室」の役割を果たす。
この生態を2008年に見つけたのは、山形県の月山麓にある県立自然植物園の自然観察員で、今年91歳になる長岡信幸さん。
夏にはこのような葉の動きが見られず、秋になると実を包み始めることに気づいた。月山の標高の低いところではこの現象が目立たないことから、葉が実を寒さから守っている「温室」ではないかと考えた。
相談を受けた京都大学生態学研究センターの酒井章子教授と森林総研の直江将司主任研究員らの研究グループが、2018年から長岡さんと調査を始め、葉の役割を解明した。
調査によると、「温室」内部では裸の時に比べて温度の変動が比較的少なく、天気の良い日には最大4.6℃高くなった。葉の重なりは、標高が高く寒い地点になると厚くなる傾向があった。「温室」を取り除くと、実の成長や残存率が下がった。
「温室」を作る葉は葉緑体の量が少なく、光合成活動よりも実を守ることに特化した葉だといえる。
この成果は、長岡さんが第一著者として投稿し、今年10月7日の「英国王立協会紀要」にオンライン掲載された。
ミヤマニガウリの個体群の中には、同じ個体群の中に実をつけない雄個体と、花粉と実を作る両性個体が共存している。「温室」の中の花ばかりになると、雄は子孫を残せず絶えてしまうと思われる。
また花粉の媒介をする昆虫の飛来を妨げてしまうため、植物の交配にどのような影響を与えているかが、今後の興味深い研究テーマとして浮上してきた。
ミヤマニガウリは春に芽生えて、秋には枯れてしまう1年草である。酒井教授は、「繁殖のチャンスが1回しかないため、できるだけ長く実を生産し続け、光合成で得られた資源を最大限に活用しようと温室を作ったのではないか」と、短命なミヤマニガウリの生命の逞(たくま)しさに感心している。