細菌が昆虫をメスだけにしてしまう仕組みを解明―ショウジョウバエで発生する「オス殺し」現象の謎を解く:産業技術総合研究所
(2016年9月21日発表)
(国)産業技術総合研究所は9月21日、細菌の一種スピロプラズマに感染したショウジョウバエがメスだけになってしまう「オス殺し」の仕組みを解明したと発表した。
微生物の機能は、食品生産や医薬品開発をはじめ様々な分野で利用されてきた。
さらに近年は、微生物の中でも動物や植物と共生して高度な機能を発揮する共生微生物が未探索の生物資源として注目されている。
なかでも共生微生物によって宿主の昆虫が全てメスになってしまう「オス殺し」現象の利用は、有用昆虫の雌雄別生産や天敵農薬の効率的生産などにつながることが期待されている。
昆虫のオスとメスの生まれる比率は、およそ1対1。それがショウジョウバエにスピロプラズマが寄生し共生すると、メスのショウジョウバエが産む卵からはメスだけが発生し感染したメスの次世代が全てメスになる「オス殺し」現象がおきることが知られている。
しかし、分子・細胞レベルの機構についてはまだ分かっていないことが多い。
スピロプラズマは、動植物の体内に寄生・共生する全体がらせんを巻いている細菌。
X染色体とY染色体を持つショウジョウバエのオスは、X染色体だけを持つメスの半数しかX染色体がなく、X染色体の全域にわたって遺伝子の発現を倍加させる活性を持つたんぱく質とRNA(リボ核酸)の複合体(遺伝子量補償複合体)が結合している。
産総研は、スピロプラズマがショウジョウバエのそのたんぱく質-RNA複合体と結合した染色体に損傷を与えることでオスの卵が全て死亡してメスの卵だけになることを見つけた。
解析には、従来のシーケンサーとは異なり、一度に読み取れる塩基配列の長さが50~500塩基(従来法では約800塩基)と短いものの、高度並列処理により1回の解析で数千万~数十億塩基対の塩基配列情報を得ることができる特徴を持つ、次世代シーケンサーを使った。
有用昆虫は、オスとメスとで利用価値の異なるものが少なくない。たとえば、昆虫類に寄生するハチ類。天敵農薬となるのはメスだけで、害虫の体内に産み付けた卵が幼虫になって害虫を食い殺す。
今回の成果は、そうした有用昆虫の研究に役立つと期待される。