微生物が放出する多様な膜小胞の形成の仕組み解明―膜小胞由来の安全なワクチン開発に貢献へ:筑波大学ほか
(2021年1月15日発表)
筑波大学と大阪市立大学の共同研究グループは1月15日、微生物が細胞外に放出する「膜小胞」と呼ばれる小胞が作られる仕組みをコリネ菌で解明したと発表した。膜小胞には宿主の免疫系を活性化する機能などがあることから、今回の成果は膜小胞由来の安全なワクチン開発への貢献が期待されるという。
膜小胞は、細胞が細胞外に放出する、細胞膜と同じ成分でできた多様な小胞。近年、生体内で様々な重要な役割を果たしていることが分かってきたが、膜小胞が作り分けられ、多様性が生じる仕組みについては未解明な点が多く残されている。
研究グループは今回、グラム陰性菌やグラム陽性菌に比べて、細胞表層の構造が複雑な「ミコール酸含有細菌」という菌群のなかの無毒株であるコリネ菌を用い、膜小胞が形成・放出される様子を詳細に調べた。
その結果、コリネ菌はDNAの複製が阻害された時と、細胞壁の合成が阻害された時、また細胞膜の合成に必須のビタミンの一種ビオチンが少なくなった時、の三つの場合に膜小胞を放出することが明らかになった。
細胞の微細構造をさらに観察したところ、それぞれの場合で、作られる膜小胞の構造や化学的な組成は異なっており、入れ子構造や鎖状構造のユニークな構造を持っていることが見出された。同様な仕組みは、コリネ菌以外のミコール酸含有細菌にも保存されていることが分かった。
ミコール酸含有細菌が放出する膜小胞の3通りの形成メカニズムとその多様さが明らかになったのはこれが初めて。結核菌はミコール酸含有細菌に属し、結核菌が放出する膜小胞がヒト免疫を誘導することが知られている。このため、今回の研究成果を用いて結核菌のような病原菌の膜小胞の組成を変えれば、安全で効果的なワクチン基盤の構築が期待されるという。