光に反応して繊毛を動かす新規たんぱく質を発見―人為的に繊毛運動の調節ができれば、繊毛異常の疾患治療に光明が:筑波大学ほか
(2021年2月26日発表)
筑波大学生命環境系、大阪大学大学院、東京工業大学の研究チームは2月26日、繊毛を動かすたんぱく質の「ダイニン」に結合して、その活動を調整する光応答型の新規たんぱく質を発見したと発表した。繊毛運動の異常は人の重要な疾患にも関わっているだけに、光による分子モーターの調節機構が解明できるようになれば、新たな治療法につながるものとみている。
繊毛は細胞から突き出ている毛のような微小物質で、波打ち運動を続け、単細胞の移動などに使われる。人の体内では気管や脳室、輸卵管などに関与しており、異常をきたすと水頭症や呼吸器不全、不妊、内臓逆位などの障害につながることが知られている。
また外からの機械刺激や化学物質刺激、さらに光刺激などによって細胞内の情報伝達物質を変化させ、繊毛を動かす分子モーターのたんぱく質複合体「ダイニン」の働きを変化させることが知られていた。
研究チームは、海産動物のホヤ(カタユウレイボヤ)から採取した精子鞭毛のダイニンを精製し、これまで知られていなかったたんぱく質が結合していることを発見した。
これには青色光に反応する領域が含まれており、ダイニン分子のモーター部分と結合していたことから「ダイニン結合BLUFたんぱく質」(DYBLUP)と名付けた。
既知の遺伝子情報を基に解析したところ、繊毛を持つ多くの生物にも存在していた。DYBLUPが微小管にダイニンを繋ぎ止める成分を持つことも見つけた。
同じ鞭毛虫のクラミドモナス(単細胞緑藻類)は光に向かって進む性質があるが、光が強すぎると回避する傾向がある。光による毒性を避けるためにも重要な働きとなっている。
ところがDYBLUPを欠いた変異体では、一時的に強い光を避けるものの、また光に向かってしまう「光の順化」が起きた。方向転換をする鞭毛運動の異常が原因と分かった。つまりDYBLUPはダイニンを調整し、毒性の強い光に順化するのを防止する役割があると考えられる。
このように光によって分子モーターを直接調整するようなたんぱく質は知られていなかった。
DYBLUPがどのように光情報を受け止めて、分子モーターの活性変化を起こしているかを、分子構造面から解明を進めている。
光による調整機能が明らかになれば、繊毛運動を光によって自在にコントロールできるようになり、将来は疾患治療への応用も可能になるとみている。