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昆虫の呼吸器官の形成に関わる新たなメカニズムを解明―気管の形成を阻害する害虫防除技術の開発に道:産業技術総合研究所ほか

(2021年3月2日発表)

 (国)産業技術総合研究所と北海道大学の研究グループは3月2日、昆虫の呼吸器官の形成に関わる新しいメカニズムを解明したと発表した。このメカニズムを阻害することにより害虫を防除する新たな技術開発が期待されるという。

 昆虫は肺を持たず、身体中に張り巡らされた「気管」によって呼吸をする。気管はチューブ状の構造をしていて、酸素と二酸化炭素を直接交換する。気管は昆虫の祖先が陸上に進出する過程で進化させた器官で、昆虫の陸上適応に重要な役割を果たしてきたと考えられている。

 しかし、その形成メカニズム、特にその頑健性(がんけんせい)をもたらす硬化のメカニズムについてはほとんど解明されていなかった。

 研究グループは大豆を食害する農業害虫のホソヘリカメムシの腸内共生細菌を研究中に、気管形成に関わるメカニズムを発見した。

 酸素分子よりも反応性の高いスーパーオキシドやヒドロキシラジカルなどの化合物を活性酸素種というが、今回、気管の形成時に、この活性酸素種が気管を構成するたんぱく質の架橋に関与し、その硬化と形態維持に重要な役割を果たしていることを見出した。

 活性酸素種を産生する酵素(Duox)の発現を抑制したり、抗酸化物質を作用させたりすると、気管の形成が阻害されることも分かった。

 また、昆虫の腸内に生息する好気性細菌が、酸素を消費することで気管の形成が促進されることも分かった。

 これら気管形成に関わるメカニズムの発見は、気管の形成を阻害するような新しい発想の害虫防除技術の開発につながる可能性があるという。研究グループは今後、活性酸素種産生酵素の機能を阻害する化合物や抗酸化物質の研究も進めたいとしている。