スーパー作物キヌアの遺伝子機能解明に道拓く―葉や茎の色、背丈、花の形など変えることに成功:国際農林水産業研究センターほか
(2021年3月18日発表)
(国)国際農林水産業研究センターと岩手大学などの共同研究グループは3月18日、スーパー作物ともスーパーフードとも呼ばれて国際的に注目を浴びている南米アンデス原産の作物「キヌア」の遺伝子を調節して葉や茎の色、背丈、花の形などを変えることに成功したと発表した。キヌアが持っている優れた環境適応性、栄養特性の謎を解き明かすのに繫がることが期待される。
キヌアは“穀物の母“とインカの時代いわれていた雑穀の一種で、茎の先端部に実る種子は栄養バランスに優れNASA(米国航空宇宙局)が宇宙飛行士の食料として注目したため脚光を浴び、国際連合食糧農業機関(FAO)は干ばつなどの過酷な環境でも栽培できることから世界の食料・栄養問題解決の切り札になる作物の候補に挙げている。
しかし、ゲノム(全遺伝情報)が複雑であることなどの理由からこれまで遺伝子レベルでの解析はあまり進んでいなかった。
今回得られた成果はその壁を突破するもので研究を行ったのは国際農研、岩手大、京都大学、(株)アクトリー、(国)科学技術振興機構、(独)国際協力機構の共同研究グループ。
岩手大がリンゴの木から見つけた病原性のない「ALSV」というウイルスを元にして外来遺伝子を細胞内に運ぶ働きを持つウイルスベクター「ALSVベクター」を開発、これを使ってキヌア遺伝子の働きを抑えると、葉や茎や花に白化症状(色素がない状態)が生じてキヌアに存在する赤色や黄色の色素であるカロテノイドの合成に関わる遺伝子の働きが抑制されることが分かった。
また、ALSVベクターを用いてCqDODA1という遺伝子の働きを抑制したキヌアの葉や茎では赤紫色の色素(ベタレイン色素)の含有が顕著に減少し赤紫色だったのが緑色に変わった。
さらに、ALSVベクターを用いてキヌアのCqRHT1と呼ばれる遺伝子の働きを抑制すると背丈を普通より30cm前後も高くできることを確認した。
こうした結果が得られたことから「キヌアの高い環境適応性や優れた栄養特性を支える遺伝子機能や分子機構の解明が一気に進むことが期待される」と研究グループは話している。
キヌアは、我が国を含め100以上の国に普及しつつあるといわれている。