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ウイルスを不活性化できるコーティング膜形成技術を開発―手すり、つり革、ドアノブなどに抗ウイルス機能を付与:産業技術総合研究所ほか

(2021年3月22日発表)

 (国)産業技術総合研究所と就実大学の共同研究グループは3月22日、ウイルスを短時間で不活性化できるコーティング技術を開発したと発表した。手すりやつり革、ドアノブ、操作ボタンなど、金属やガラス、樹脂でできた物質の表面に優れた抗ウイルス機能を持たせられるという。企業と協力して実用化を急ぎたいとしている。

 新型コロナウイルスの感染では飛沫の拡散が主要な経路とされ、マスクの着用、手洗い、三密の回避の励行(れいこう)が求められている。だが、物質表面に付着したウイルスからも感染する恐れがあり、気温や湿度などの条件によっては物質に付着したウイルスの活性は1週間にも及ぶという研究報告もある。

 アルコールや希釈洗剤(界面活性剤)は、新型コロナウイルスのようなエンベロープ型と呼ばれるウイルス粒子の最も外側にある脂質膜を破壊する作用があるので、ウイルスが付着しやすい手すりやドアノブなどを界面活性剤を含ませた布などで拭くことが重要とされている。ただ、常時、頻繁に拭くのは難しいことから、これらの物質表面に抗ウイルス作用を持たせることが期待されている。

 産総研は、金属やガラス、樹脂など様々な物質の表面に強固な密着力と強度を持つ孔径ナノサイズの多孔性セラミックス膜を常温で高速に形成できる「エアロゾルデポジション(AD)法」という技術を保有している。

 今回この技術を用いて、基材上に厚さ1㎛(マイクロメートル、1㎛は1,000分の1mm)以上のナノポーラスセラミックス膜を形成し、そこに消毒で広く用いられている界面活性剤のクロルヘキシジン(CHX)を含侵させた。形成したコーティング膜は界面活性剤を含侵するとともに、含侵した界面活性剤を徐放する機能も持つ。

 国際標準になっているウイルス不活性化評価試験で抗ウイルス効果を調べたところ、24時間試験ではウイルス不活性化率は99.997%以上、2時間試験でもウイルス不活性化率は99.98%以上あり、高い抗ウイルス効果が確認された。

 水中で超音波洗浄したり摩耗試験を行ったりした後でCHXの残存量を評価したところ、いずれの場合もCHXの残存が認められ、抗ウイルス効果の持続性についても期待できることが分かったという。

 今後、長期耐久性を調べたり、コーティング後の表面のリフレッシュ法やCHXの補充などを検討するなどし、企業と連携を図りながら早期実用化を目指したいとしている。