フェーン現象は通説とは異なるメカニズムで発生―北陸富山における約200件の事例解析から判明:筑波大学
(2021年5月17日発表)
筑波大学の研究チームは5月17日、フェーン現象は通説とは異なるメカニズムで発生していることを解明したと発表した。一般に広く信じられている「熱力学メカニズム」によるフェーン現象は日本においてはほとんど起こっていないという解析結果が得られたという。
フェーン現象は、風が山を越える際に暖かくて乾燥した下降気流となり、ふもとの気温が上昇する現象。発生メカニズムについては大別すると「熱力学メカニズム」と「力学メカニズム」の2説がある。
風が山を乗り越える際に、山岳風上斜面に降水をもたらし、その後、乾いた風が風下斜面から平野に吹き降りることで高温をもたらすというのが「熱力学メカニズム」説。これに対し、風上斜面で降水をもたらさずに、山岳上空の風が平野に吹き降りてくることで高温をもたらすというのが「力学メカニズム」説。
日本は世界的なフェーン現象多発地域で、「熱力学メカニズム」が広く理解され通説になっている。ヨーロッパアルプスのフェーン現象についてはどちらが主要か議論が分かれているという。
研究チームは今回、フェーン現象の多発で知られる北陸地方の富山平野における、過去15年間に生じたフェーン現象198事例を対象に、気象モデルとスーパーコンピュータを用いてメカニズムを解析した。
その結果、日本のフェーン現象は、熱力学メカニズムではなく、主に力学メカニズムで生じていることが明らかになったという。対象としたフェーン現象の80%以上は力学メカニズムで発生しており、熱力学メカニズムは20%以下しかなかった。
しかも、そのほとんどは純粋な熱力学メカニズムではなく、力学メカニズムと熱力学メカニズムの両方の性格を含んだマルチメカニズムであることが示された。
つまり、これまでの通説であった純粋な熱力学メカニズムによる現象は、実はほとんど発生していないことが示された。
また、フェーン現象は低気圧や台風の接近時に発生しやすいとされてきたが、高気圧型の日でも発生することが明らかになり、その割合は全体の約20%を占めていた。さらに、日中よりも夜間に発生しやすいことが分かった。
研究チームは今後、夜間多発の原因や頻度・強度の予測などについて研究を進めたいとしている。