造血幹細胞移植の合併症―発症機構解明し治療に道筋:筑波大学/TNAX Biopharma
(2021年5月17日発表)
筑波大学とTNAX Biopharma(株)は5月17日、再生不良性貧血などの治療法である同種造血幹細胞移植に伴う合併症「移植片対宿主病(GVHD)」の治療に新たな手がかりを得たと発表した。合併症に関与する患者の免疫細胞の働きを分子レベルで解明、発症抑制の道筋を見出だした。自己免疫疾患や炎症性疾患など、免疫細胞が関与する他の病気の治療法開発にも応用できる可能性がある。
血液のがんである造血器悪性腫瘍や、白血球や赤血球などを作る造血幹細胞が減少する再生不良性貧血では、白血球の血液型であるHLAが一致する他人の造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植が行われている。ただ、この治療法では合併症として移植片対宿主病が起きることがあり、その原因究明が大きな課題となっている。
筑波大医学医療系の澁谷和子准教授らの研究グループは今回、移植片対宿主病が発症したときに患者の免疫細胞の表面に現れる受容体たんぱく質「DNAM-1」に注目。このたんぱく質の働きを封じる抗体を投与したときに免疫細胞がどんな影響を受けるかを、人工的に移植片対宿主病を起こさせたマウスで検証した。
その結果、抗体の投与でマウスの生存期間は明らかに長くなり、移植片対宿主病の悪化を防げることが分かった。免疫を正常に機能させるように働く白血球の一種「制御性T細胞」が血液中で増えていることも確認できた。さらに、受容体たんぱく質「DNAM-1」は、制御性T細胞で作られる別の受容体たんぱく質と競合しながら制御性T細胞の働きを抑制していることを突き止めた。
これらの成果から、受容体たんぱく質「DNAM-1」の働きを阻害する抗体を利用することで、移植片対宿主病のほか炎症性疾患や自己免疫病の治療に道が開けると研究グループは期待している。