金属を持たない新たな炭酸脱水酵素を発見―機能が未知だった、たんぱく質に酵素機能見つかる:筑波大学ほか
(2021年5月25日発表)
筑波大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは5月25日、生物の生命活動の一端を担っている重要な酵素「炭酸脱水酵素(CA)」で、活性中心部分に金属を持たない新種を発見したと発表した。「炭酸脱水酵素イコール金属酵素」という固定概念を覆す成果という。
炭酸脱水酵素(CA)は、二酸化炭素(CO2)と重炭酸イオン(HCO3-)を相互変換する反応を触媒している酵素。生物全般に存在しており、ヒトでは赤血球内に豊富に存在し、呼吸で作られる二酸化炭素の変換に関与している。また植物や藻類では、光合成反応に必要な二酸化炭素の供給に使用されている。
現在までに8つの異なる種類のCAが報告されており、これらはたんぱく質の配列や構造は異なるものの、全て、活性中心に亜鉛などの金属イオン(金属補因子)を含む金属酵素として知られている。
ところが研究グループは今回、金属イオンを持たない新規のCAを見付けた。藻類やバクテリアに広く見い出されるものの、機能が全く分かっていなかったCOG4337と名付けられたたんぱく質を生化学的に解析したところ、このたんぱく質は二酸化炭素を重炭酸イオンに変換する酵素活性を持つことが分かった。
そこで、X線結晶構造解析とアミノ酸置換解析によりこのたんぱく質の構造などを解析したところ、酵素活性中心に金属イオンが存在しない、CAの新種であることが分かった。
これまでCAは、活性中心の金属イオンが水分子の活性化を行うと考えられてきたが、COG4337たんぱく質は親水性と疎水性のアミノ酸で構成される小さな穴を持ち、その内部で水分子と二酸化炭素を反応させて重炭酸イオンの合成を行っている。すなわち、従来知られているものとは異なるメカニズムを持つことが判明した。
水中など二酸化炭素が乏しい環境に生息する光合成藻類は、二酸化炭素と重炭酸イオンの相互変換により、効率的に二酸化炭素の濃縮と拡散防止を行う「二酸化炭素濃縮機構」という光合成のための仕組みを備えている。新種のCAは、この二酸化炭素濃縮機構に関与していると考えられるという。
新種のCAは陸から離れた金属の乏しい海洋環境でも機能できることから、そのような環境に生息する生物において進化したと推測されるという。