謎の寄生虫「芽殖孤虫(がしょくこちゅう)」のゲノムを解読―病原機構に迫る、国際協力で成功:宮崎大学/国立科学博物館ほか
(2021年5月31日発表)
宮崎大学、国立科学博物館、東京慈恵会医科大学などの共同研究グループは5月31日、人の体に侵入すると死に至らしめるという謎に包まれた「芽殖孤虫(がしょくこちゅう)」と呼ばれる寄生虫のゲノム(全遺伝情報)を解読したと発表した。
芽殖孤虫はサナダムシの一種。孤虫とは、成虫(親)が不明の幼虫のこと。芽殖孤虫は体長が3mmから1cm強ほどの糸クズのように見える小さな寄生虫だが人の体内で恐ろしい働きをする。
しかも、人への感染経路は分かっておらず、ひとたび体内に侵入すると増殖して数を増やし様々な臓器・組織を破壊していき致死率が高い寄生虫感染症を引き起こす
最初の症例が見つかったのは東京で、明治37年(1904年)のこと。しかし、それから120年近く経つがこの間に確認されている世界中の発症が疑いを含めて僅か18例と極めて少ないこともあって詳しいことはほとんど分かっていない。
成虫の芽殖孤虫は、いまだにどんな動物からも発見されておらず、今回の研究はこの謎の寄生虫の正体を明らかにしようと宮崎大学医学部の菊地泰生准教授が中心になって国際協力により最先端のバイオ技術を駆使して挑んだもので、国立遺伝学研究所、鳥取大学、東京大学、海外からトルコのデュズジェ大学、英国のバース大学、ベネズエラのベネズエラ中央大学の研究者が参加した。
研究は、過去にベネズエラで発生した症例から分離され40年近くにわたって実験室で実験用マウスで継代されてきた生きている幼虫を用いて行われ、次世代DNAシーケンサー(塩基配列解析装置)を使って膨大な数のDNA断片の塩基配列を明らかにしそれらを繋いでゲノムの塩基配列を決定した。
その結果、芽殖孤虫の幼虫の遺伝子総数は18,919個、ゲノムは約6億5千万の塩基対で構成(人のゲノムの塩基対は約30億)され、成虫にまで成熟するのに必要と考えられる遺伝子を持っていないこと、盛んに増殖してたんぱく質分解酵素や他の生物では見つかっていない機能不明のたんぱく質を活発に作っていることが分かった。
こうした解析結果が得られたことから研究グループは「芽殖孤虫は成虫になることのできない真の孤虫であると考えられる」とする見方を発表している。
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