鉱石からの金属生産2030年までにピーク迎える―世界規模のシミュレーションの結果判明:国立環境研究所
(2021年6月4日発表)
(国)国立環境研究所の研究グループは6月4日、世界の鉱石からの金属生産は2030年までにピークに達し、2050年までにスクラップからの生産量が鉱石からを上回るようになるとする炭素制約が世界の金属生産と利用にもたらす影響を推定したシミュレーション結果を発表した。
金属の生産からは温室効果ガスのCO2が多量に出る。UNEP(国連環境計画)国際資源パネルの統計によると世界の温室効果ガス排出量の約10%が金属生産から出ているとされている。
そのため、パリ協定で合意された世界の気温上昇を1.5〜2℃以下に抑えるという気候目標達成に向け金属生産からの温室効果ガスの削減が求められている。
そこで研究グループはパリ協定達成のための炭素制約が21世紀にわたる金属生産と利用にもたらす影響を全世界規模でシミュレーション解析した。
研究は温室効果ガスが生じる金属の約95%を占めている鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、ニッケルの6金属の生産を対象にして解析を行った。その結果、世界の気温上昇を1.5〜2℃以下に抑えるための炭素制約下では2030年までに対象とする6種の金属の天然鉱石からの生産量が全ての金属においてピークに達し、生産量当たりのCO2排出量がより少ないスクラップからの金属生産量が徐々に増加していって2050年までに天然鉱石からの生産量を上回ることが示された。
しかし、利用可能なスクラップには量的限界があるために21世紀後半にかけてその生産量は徐々に減少し続けるという状況になってしまい人口一人当たりの金属利用可能量が日本を含む高所得国の現在の約12t(トン)が約7tにまで減少する状況が生じるという分析結果が出たとしている。
そのため、その対応策として脱炭素電力の利用、エネルギー効率のアップをはじめ、水素還元技術の普及、リサイクル率の向上などの推進を挙げているが、それらの様々な対策を野心的に実行するとしても人口1人当たりの金属利用可能量は今の12tより少ない約10tにまでにしかならないとする厳しい見方をしている。
日本の脱炭素社会と金属利用に関する長期展望の構築に貢献することが期待される。