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花の進化に新仮説―複数種の動物に合う色や香りを:筑波大学

(2021年6月7日発表)

 筑波大学生命環境系の大橋一晴講師の研究チームは6月7日、花の色や形、香りといった特徴は昆虫など特定の動物に合わせて進化したのではなく、複数種の動物に受粉を助けてもらえるように進化してきたとする新しい仮説を発表した。花の特徴は特定の動物の好みや行動に合わせて進化してきたとする従来の定説を覆すもので、今後、野生植物の保全などを進めるうえでも重要な視点になるとしている。

 花には色や香り、花びらの形など極めて多様な特徴がある。これは長い間、特定の動物に受粉を助けてもらえるように花が進化を遂げてきた結果だと考えられてきた。その一方で、複数の種類の動物に受粉を助けてもらうよう進化してきたという考えは、一つの動物に合わせて花が進化すれば他の動物には合わないというトレードオフの関係が生じ、花に多様性は生まれないとも考えられてきた。ただ、複数の動物を引き寄せた方が受粉の失敗が少ないとする考え方もあり、花の多様性がどのようにして生まれたかについては必ずしも決着がついていなかった。

 そこで大橋講師らの研究チームは、複数種の動物が受粉を助けられるように花が進化したとする複数のシナリオを考えて詳しく分析するよう提唱した。例えば、昼に活動するハナバチと夜に活動するガの好みのいずれにも合わせられるよう花の香りを昼夜で変える、動物に気付かれやすいように蜜も花粉もなくなった古い花でも色を変えて残しておくなど、トレードオフ関係を緩和するという視点から、さまざまな花の特徴が持つ進化的な意味をとらえなおすべきだとしている。

 今回の提案について、大橋講師は「生態学で長らく議論の絶えなかった問題に、世界で初めて解決の糸口を示した」と話しており、花の進化研究に新たな潮流が生まれることを期待している。