コロナ下の救急往診サービスを分析、中等症と重症患者が増加―将来の救急外来、保健所の負担軽減などに貢献:筑波大学
(2021年6月15日発表)
筑波大学医学医療系の田宮菜奈子教授の研究チームは6月15日、医師が患者宅に出向く「時間外救急往診サービス」の東京都内での調査結果をまとめ発表した。新型コロナウイルスの世界的大流行が始まってからは中等症と重症の利用者が増え、65歳以上の高齢の重症者が多かった。発熱者は保健所に相談するよう指導され病院での受診を控えたために重症化し、救急往診サービスの利用につながったとみられる。この分析結果は将来の救急外来や保健所行政の改善などに役立つとみている。
電話一本で医師が直接患者宅に出向いて診療する夜間、休日の時間外救急往診サービスは、パンデミック(世界的大流行)前から各国で運用されている。
日本では「ファストドクター(株)」(東京都新宿区)が2016年に創業。各地の医療機関と連携し、内科医、小児科医、整形外科医など1,000人以上が所属し、救急相談、緊急往診、夜間休日のオンライン診断などの支援をしている。
筑波大は同社の協力を得て、パンデミック前(2018年12月1日から5か月間、患者数6,462人)と期間中(2019年12月1日から5か月間、患者数1万3人)の救急往診サービスの利用者の特徴や重症度の傾向の変化を分析した。中でも発熱患者と感染症状の患者に注目した。
患者から救急往診要請の電話が入ると、オペレーターが聞き取って新型コロナウイルス感染の可能性を判定し、緊急度の高い順に「赤」「橙」「黄」「緑」「白」と分類。「赤」は保健所に連絡し、「橙」と「黄」の患者は救急往診を実施した。症状の程度は診察後に医師が判定し、「軽症」(市販薬で対応できる)、「中等症」(病院受診が必要)、「重症」(救急車が必要)に分けた。
発熱、または感冒症状の患者は、パンデミック前に救急往診を受けた計6,462人中の5,335人(82.6%)で、パンデミック中は1万3人のうち7,423人(74.2%)だった。
年齢別にみると、パンデミック前は16歳未満が59.0%、16〜64歳が39.6%、65歳以上が1.4%、パンデミック中は順次55.9%、41.6%、2.5%。患者の多くは65歳未満だった。
重症度別では、「軽症」は16歳未満がパンデミック前71.1%から期間中42.3%に減少し、「中等症」が順次28.7%から56.7%に急増し、「重症」は0.2%から0.9%に増え、中等症と重症患者の割合が増加したことが分かる。また年齢層別では65歳以上で重症化の割合が多かった。
研究チームは当初、パンデミック期間中は二次感染の心配があるため病院に行かず、救急往診の利用が増えると推測した。ところが予想に反して、発熱や感冒症状の患者の割合は減少していた。これは患者が病院や診療所に行かないだけでなく、時間外往診サービスの利用も控えていた可能性がある。
厚労省は、当初から「37.5℃以上の風邪や発熱が4日以上続き、強い倦怠感や呼吸障害がある患者は、まず保健所に相談を」と推奨していた。これまでの幾つかの研究でも、「二次感染を懸念して病院受診を控えたことで、受診が遅れ重症化した」との報告が出ている。
しかし往診サービスは医師が患者の自宅に訪れるので二次感染の懸念を減らせるはずだ。厚労省の政策が、患者の重症化を増加さたかどうかについては、「今後さらなる研究が必要」と判断を留保している。
パンデミック発生後の医療逼迫と混乱の中で、救急往診が7,000件以上の患者を診察したことは、保健所や救急外来、地域や病院の負担を減らし、二次感染のリスクを抑えることに貢献したとみている。
この経験は、今後新たなパンデミックが発生した際などに、救急往診サービスが医療政策や緊急医療体制、社会行動を後押しするものと評価している。