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青森で出土の「把手付きルツボ」は東日本で初めての発見―真鍮や貴金属を作るためのルツボで、京都から高度技術者を呼び寄せて制作か:青森県三戸郡南部町教育委員会/国立科学博物館

(2021年7月14日発表)

 青森県・南部町教育委員会と(独)国立科学博物館は7月14日、戦国大名・三戸南部氏の城館、聖寿寺館跡(しょうじゅじたてあと)(国史跡)の出土品4,000点以上を理化学分析した結果、金、銀、銅、真鍮(しんちゅう)などの貴金属が付着した複数のルツボ(坩堝)と、それらを製造するために使われた「把手(とって)付きの真鍮ルツボ」を確認したと発表した。把手付きルツボの発見は東日本では初めてで、特殊技術を扱える高度な職人集団を京都などから呼び寄せて地元で製造させていた可能性があるとしている。確認された金、銀、把手付きのルツボ等は7月17日から聖寿寺館跡で一般公開される。

 把手付き真鍮ルツボは、口径3.2cm、底径4.4cm、高さ4.6cmで、横に把手がつき、約半分が欠損していた。国立科学博物館理工学研究部の沓名(くつな)貴彦研究主幹が、2020年7月から約1年かけてルツボ内部に付着した成分を顕微鏡や蛍光エックス線で分析して元素を特定し、真鍮製品を作るためのルツボとして使われたものと判明した。

 見つかったのは倉庫や工房と思われる竪穴建物跡群。これまでに発見されている青磁碗や馬具、クギなどの出土品と照らし合わせて16世紀初頭から同中頃に建てられた建物群とみられ、ルツボも同時期のものと考えられる。

 真鍮は銅と亜鉛の合金で色彩が黄金色に輝くことから、日本の中世社会では貴金属として金の代わりに使われたケースがある。分析では金、銀、真鍮以外にも、ルツボから銅や亜鉛、鉛、ヒ素など複数の元素が確認されており、多様な合金製品が作られていたと考えられる。

 把手付き真鍮ルツボの出土例は全国でも少なく、西日本に偏っている。鷺山(さざやま)仙道遺跡(岐阜県岐阜市)、織田信長の居城でもあった清洲城下町遺跡(愛知県清須市)、京都市内遺跡(京都府)、大阪城跡(大阪府大阪市)、堺環濠都市遺跡(大阪府堺市)、黒崎城址(福岡県北九州市)、首里城跡(沖縄県那覇市)で確認されていた。

 聖寿寺館跡からはこれまで複数のルツボが出土しており、今回の分析で金粒子が付着したのが8点、銀粒子付着が2点確認された。銀ルツボには銅も確認されたことから、三戸南部氏が合金を作るために使われたと考えられる。

 戦国大名の三戸南部氏が、高度な技術を持った職人を呼び集めて貴金属(非鉄金属)を現地生産していたことは、東日本の金属生産、加工の歴史と高度技術の伝搬を探る上で貴重な手がかりとなる。