作物の地中の根の動きを見える化する装置を開発―高感度光ファイバーセンサーで捉え、デジタル情報として活用:海洋研究開発機構/農業・食品産業技術総合研究機構
(2021年7月12日発表)
(国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)・超先鋭研究開発部門と(国)農業・食品産業技術総合研究機構は7月12日、地中で作物が根をはる動きをリアルタイムで可視化できる装置を共同で開発したと発表した。根菜類など地中作物の生育診断や地中小動物の動きの観察のほか、海洋環境の生態調査など、これまで目視が難しかった領域での生態をリアルタイムで観察できる。
地球温暖化や災害などによって環境変動が高まる中、地中生態系にも大きなストレスが生じている。また、干ばつや養分欠乏、塩害などによる土壌ストレスが生じても、できるだけ普段通りに生育や実りをもたらす作物の開発が求められている。そのためには根の動きの正確な観測と改良が欠かせない。
根は地中の深さによって異なる機能を持つ。地中深くでは水や窒素を吸収し、干ばつ時の生産性に寄与する。浅い所では地表の酸素を得やすく、塩害や湿害で酸素不足になった土壌の生産性を高める。
ところが地中は厚い土壌に覆われて目視がきかず、根を直接観察するのは難しかった。
迅速で自在な作物開発を目指すには、作物生育状況と環境変動、ゲノム情報が即時に得られるようなリアルタイム計測が求められるようになった。
植物の根は、時にはコンクリートさえ突き破り、アスファルト道路を持ち上げるほどの力強さがある。根が土を押すと地中の微細構造が変形することから、この変形を計るセンサーの開発に取りかかった。細い根による微弱な応力も検出するために、高感度な光ファイバーを使ったセンサーを開発した。
長方形の柔らかいフッ素樹脂フィルムに、細い光ファイバーセンサーを平行に細かく配線したシートを作成する。このシートを円筒状や渦巻き型に組み立てて、地中などに埋め込みテストした。
試しに直径1mmの植物根に見立てた針金で地中のある点を刺したところ、光ファイバーの歪みの発生場所と一致した。針金の太さを変えると、太い方が光ファイバーに発生する歪みが大きく観測され、媒体が硬い方が歪みの程度も大きくなった。
実際にハツカダイコンを使った実験では、根の成長に合わせて光ファイバーに発生する歪みの変化が観測できた。このように理論と実験の両方で、微小な生物の動きが検出でき、可視化できることを確かめた。
農業向けに、根菜類やトリュフなどの地中作物の生育診断ができれば、収穫時期の決定にも使える。
さらに得られた大量の地中データをデジタル情報として再構成し、高度な仮想空間を活用する「サイバーフィジカルシステム」の構築も可能だ。作物の生育状況のテレワーク化、自動化によって、将来の食料生産の安定化に貢献できるとみている。
また海洋研究面では、底生生物が掘る巣穴が海の生態系に大きく影響を与えるといわれるが、巣穴形成の形成過程や範囲など、見えない領域の海底調査にも役立つと期待される。