温暖化と海洋酸性化の同時進行で生態系の単純化が起きる―実海域実験で一変するのを確認:筑波大学
(2021年7月16日発表)
筑波大学は7月16日、温暖化と海洋の酸性化とが同時に進行すると暖温帯海域(暖かな海域)では大型の藻類やサンゴが生息できなくなってしまい小型の藻類だけが繁茂する生態系の単純化が起こることが分かったと発表した。大気中のCO₂濃度が上昇すると温暖化だけでなく海水中にCO₂が溶け込むため海洋の酸性化が起こるが、温暖化と海洋の酸性化とが複合的に同時進行すると生態系が一変してしまうことを実海域実験によって確認したという。
日本を含む世界中の温暖な暖温帯海域にはケルプと呼ぶ大型藻類が作り出す生態系が拡がっているが、近年そのケルプの減少が報告され、日本でも“磯焼け”の名で問題になっている。
また、水温の上昇によってサンゴ礁を形成する造礁サンゴの分布域が暖温帯海域にまで北上しつつあり、生態系の「熱帯化」が懸念されている。
今回の研究には、イタリアのパレルモ大学、フランス国立開発研究所、東京大学、沖縄科学技術大学院大学などが協力。下田市(静岡県)の恵比寿島付近の海域を「現在」の低水温・低CO₂濃度の環境、そこより50㎞南の式根島(東京都 新島村)付近の高水温・低CO₂濃度の海域を「温暖化」が進んだ環境、さらに式根島海域に存在するCO₂ガスが海底から噴出しているCO₂シープと呼ばれている海域を「温暖化と海洋酸性化」の環境としてこれら3種類の異なる環境のケルプとサンゴの調査を行ない、それぞれの環境にケルプとサンゴの移植を実施して生残(生き残り)と成長の様子を調べた。
その結果、「現在」の環境域では移植したケルプのほぼ全てが生残したが、「温暖化」するとそれが一変。ケルプは存在しなくなり、代わって多様なサンゴがはびこるようになり、さらに「温暖化と海洋酸性化」が進んだ環境ではそうした多様なサンゴもなくなって小型の藻類だけが繁茂する単純な生態系に変わってしまうことが分かった。
こうした実海域実験により研究グループは、温暖化と海洋酸性化が同時進行するとケルプが消失してしまうだけでなく近年注目されているサンゴの北上も停滞する可能性があることが判明したとし、大気中のCO₂濃度が高くなると暖温帯海域では「熱帯化」ではなく「単純化」が生じると見ている。