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悪玉コレステロール値が高いと認知症のリスクがある―英国の医療ビッグデータを解析して明らかに:筑波大学

(2021年7月27日発表)

 筑波大学医学医療系の岩上将夫助教らの研究グループは7月27日、英国の医療ビッグデータを使って認知症と血中コレステロールとの関係を解析し、その結果を発表した。40~60歳の中年期に悪玉コレステロール値が高いまま10年以上続くと、認知症の発症に大きく影響することが明らかになった。今後、日本の医療ビッグデータも使って調査を広げ、予防につなげるとともに、認知症リスク因子の探索や医療・社会的負担がどのように増えるかの推定も実施する。

 日本や英国などの先進国では、高齢化によって認知症の社会・医療に与える負担が増加している。治療法の開発は難航しており、たとえ新規治療薬が登場しても高額な医療費が社会負担になるとみられる。

 一方で予防法の研究は徐々に進み、世界的に評価の高い医学雑誌「ランセット」の認知症委員会は、2017年に認知症にかかる潜在的な危険因子を9つ決めた。

 教育不足、高血圧、聴覚障害、喫煙、肥満、うつ病、運動不足、糖尿病、社会的な接触の少なさ(孤独)で、2020年にはさらに過度のアルコール摂取と脳外傷、大気汚染の3つを加え、計12の因子を治療、処置できれば認知症の40%が予防できるとしている。

 英国では古くから「かかりつけ医」のプライマリーケア制度が確立され、同じ地域の診療所が長期間にわたって同じ患者の一般診療や専門医紹介を担当し、情報が一元的に管理されている。

 研究チームは、このプライマリーケアに蓄積されたデータベース(CPRD)に注目し、電子カルテから日常の診療情報を集め、匿名化処理した上で分析。40歳以上の住民186万人のサンプル(1992〜2009年)からHDLコレステロール(善玉コレステロール)や中性脂肪の値を使って、推定LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を計算した。

 かかりつけ医や専門医によって診断された認知症(脳血管性認知症やアルツハイマー病、それ以外の認知症)を基に、統計学的手法でコレステロール値と認知症診断との関連を解析した。

 初回時の年齢(40〜64歳と65歳以上)と、それからの期間(10年未満か10年以上)に分けてパターンをみた。過去の研究から、コレステロール値を測定した年齢と追跡期間の長さによって変化することが知られている。さらに認知症リスク要因である「喫煙歴」「飲酒歴」「肥満度」「糖尿病」「高血圧」などの併存疾患などとの関係を統計学的に調整した。

 その結果、LDLコレステロール値が増加するごとに、認知症の発生率比がゆるく上昇する傾向がみられ、初回測定時の年齢が若く追跡期間が長いほど、LDLと認知症との関連が深まる傾向にあった。

 LDLコレステロール値の集団を5群に分けると、一番高い群と認知症との発生率比は、一番低い群に比べて1.59倍も高かった。認知症のタイプ別ではアルツハイマー病との比較的強い関連が見られ、LDLコレステロールが主な役割を果たしていたことが推察された。

 よってLDLコレステロールは認知症のリスク因子であり、特に比較的若い時期(40〜64歳)のLDLコレステロールが高いと、10年以上たってから認知症リスクを増加させる可能性が示された。

 食事療法や運動療法、薬物療法によってLDLコレステロールを下げる方法は、主に心筋梗塞の予防手段として確立されている。研究チームは「LDLコレステロールを認知症リスク因子のリストに加えて予防対策にもっと力を入れるべきだ。予防の方が医療経済の観点からも効率的である」と結論付けている。