[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

個々の細胞の目印である糖鎖を解析する技術を開発―稀少細胞が標的の治療薬の開発や生命医学研究の進展へ:産業技術総合研究所ほか

(2021年7月27日発表)

 (国)産業技術総合研究所と筑波大学の共同研究グループは7月27日、個々の細胞の表面にあり、各細胞の目印となっている糖鎖について、そのプロファイルを各細胞ごとに得る技術を開発したと発表した。各細胞の性質を示す遺伝子も併せてプロファイリングすることに世界で初めて成功した。疾患の原因となる希少細胞を標的とする治療薬の開発や、生命医学研究への貢献が期待されるという。

 糖鎖はブドウ糖などの単糖がつながった生体分子。全ての細胞表面に存在し、細胞間相互作用を媒介するなど、多様な生命現象に関与しており、細胞の同定や選別の目印ともなっている。

 ただ、これまでは細胞集団単位の糖鎖情報しか得られず、個々の細胞表面の糖鎖を解析する方法がなかった。このため、腫瘍細胞中に存在する希少ながん幹細胞や、血液中に少数しか存在しない血中循環腫瘍細胞の糖鎖情報を取得することはできなかった。

 研究グループは今回、塩基配列からなるバーコードを取り付けた糖鎖結合たんぱく質「レクチン」を用い、細胞の目印の糖鎖を、DNA解読装置の次世代シーケンサーで1細胞ごとにプロファイリングする技術を開発した。

 細胞表面にある極微量の糖鎖の解析には、糖鎖情報を増幅する必要がある。そこで、短い塩基配列からなるDNAバーコ-ドを個々のレクチンの目印とし、細胞に結合したレクチンのバーコードをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅、次世代シーケンサーでDNAバーコードをプロファイリングし、個々の細胞の糖鎖プロファイルを取得するというのがその仕組み。

 新開発のこの1細胞糖鎖解析技術に既存の1細胞遺伝子発現解析法とを組み合わせ、1細胞に発現する糖鎖と遺伝子を同時にプロファイリングする技術も開発した。

 研究グループは今後新技術を研究用キットとして実用化する一方、個体、臓器を構成する個々の細胞の糖鎖をプロファイリングすることにより、臓器形成やがんなどにおける糖鎖の役割の解明を促進したいとしている。