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高収量のイチゴの新品種を開発―四季成り性で端境期(はざかいき)に従来の2倍以上を記録:農業・食品産業技術総合研究機構

(2021年7月28日発表)

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「夏のしずく」の植物体 (左)
「夏のしずく」の草勢は、「なつあかり」や「サマーベリー」より強い ©農研機構

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は7月28日、生産が落ち込む端境期に高い収量で収穫できるイチゴの新品種を青森県など東北5県との共同研究で開発することに成功したと発表した。寒冷地や高冷地で栽培することができ、端境期にこれまでの品種の2倍を超す高収量でイチゴが得られるという。

 イチゴには、冬から春にかけて収穫される「一季成り性(いっきなりせい)」と、夏や秋でも収穫できる「四季成り性(しきなりせい)」の2つのタイプがある。   

 しかし、実際に栽培されているイチゴは有名ブランドの「とちおとめ」をはじめ一季成り性品種が多く、6月から11月にかけての時期は端境期となる。

 そのため端境期には米国などから多くのイチゴが輸入されているが、その端境期に東北地方や北海道などの寒冷地・高冷地では冷涼な気候を活かして四季成り性品種を作って出荷する「夏秋(かしゅう)どり栽培」というイチゴ作りが行なわれている。

 しかし、夏秋どり栽培の品種改良はまだ歴史が浅く、収量のアップや輸送性の改善など課題を抱えている。

 今回の研究開発は、その寒冷地や高冷地の夏秋どり栽培に向いた四季成り性の新品種を開発しようと農研機構の東北農業研究センター(岩手県盛岡市)と青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県の5県が共同で行った。

 開発した新品種の名称は、「夏のしずく」。既存の多収性四季成り品種の「みやざきなつはるか」を種子親、「06sAB-4e」という系統を花粉親にしての交配を2011年から始め選抜を重ねることによって作りあげた。研究グループは「寒冷地や高冷地での夏秋どり栽培に適した四季成り性の品種で、端境期に収穫できる」と自信を見せている。

 盛岡市で2014年から2018年にかけて実施した夏秋どり栽培では既存の四季成り性品種の「なつあかり」などの1.4倍から2.4倍という高い収量を記録している。既存品種並みの糖度、酸度があって輸送性や日持ち性に関わる果実硬度が高いことからケーキ作りなどの業務需要に向いているものと見ている。

 農研機構は「利用許諾契約を締結した組織が種苗生産を行って9月以降種苗の販売が開始される予定になっている」といっている。