希少金属使わずにアルミと鉄の合金で水素の貯蔵可能―安価な水素吸蔵合金の材料探索に新たな道:量子科学技術研究開発機構/東北大学/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2021年7月29日発表)
(国)量子科学技術研究開発機構と東北大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、J-PARCセンターの共同研究グループは7月29日、希少金属を使うことなく、資源の豊富なアルミニウムと鉄の合金で水素を蓄えられることを発見したと発表した。水素吸蔵合金の開発に新たな展開が期待されるという。
クリーンな水素エネルギー時代の到来を目指し、水素を安全に経済的に取り扱うための技術開発が精力的に進められている。水素吸蔵合金の開発はその一つ。大気圧・常温下で気体の水素はかさばり爆発の危険性も大きいが、水素吸蔵合金に蓄えると体積を大幅に圧縮でき、安全に輸送したりできる。
典型的な水素吸蔵合金としてはランタン・ニッケル合金(LaNi5)、チタン鉄合金(TiFe)などがあり、いずれも希少金属のレアメタル(La、Tiなど)を含む。これは、レアメタルが「水素と反応しやすい金属」であるためで、水素吸蔵合金の作製では「水素と反応しやすい金属と、水素と反応しにくい金属(難水素化金属)とを組み合わせる」のが定石となってきた。しかし、レアメタルは資源量が少なく価格も高いことから新しい合金開発が模索されていた。
研究グループは先に難水素化金属のアルミニウム(Al)と銅(Cu)からなる合金で水素化が可能であることを発見、これをきっかけに、資源が豊富で安価な難水素化金属だけの組み合わせからなる合金作製を試み、今回アルミニウム(Al)と鉄(Fe)からなる新しい金属水素化物の合成に成功した。
実験では、Al13Fe4という組成の合金を7万気圧以上の高圧下で650℃の高温水素と反応させ、水素を吸蔵した新金属水素化物Al3FeH4を得た。この新合金が吸蔵した水素の量は、レアメタルを使ったこれまでの水素吸蔵合金と同等のレベルであった。
高圧下で合成されたAl3FeH4は大気圧下に取り出すことができ、加熱すると水素を放出、回収できる。
新合金中の金属原子と水素原子の結晶構造(並び方)を放射光X線や中性子線を使って詳しく調べたところ、従来の水素吸蔵合金における結晶構造の分類には当てはまらない新しい結晶構造であることが分かった。また、合金の表面の性質を変えることでより低い圧力でも水素を取り込めることが分かった。
今回の成果は、水素吸蔵合金の材料探索の幅を広げるもので、レアメタルを含まない実用材料開発の可能性が期待されるとしている。