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ウイルスに寄生バチ殺し遺伝子―宿主資源獲得競争で進化:東京農工大学/森林総合研究所/農業・食品産業技術総合研究機構

(2021年7月30日発表)

 東京農工大学、(国)森林総合研究所、(国)農業・食品産業技術総合研究機構などの国際共同研究チームは7月30日、イモムシの寄生バチを殺す有毒たんぱく質を作る遺伝子を同じイモムシに感染するウイルスが持っていることを発見したと発表した。新しい害虫防除技術の開発が期待できるほか、寄生者と宿主が一対一ではなくより複雑な関係の中で互いに対抗戦略を獲得してきたことが明らかになったとして、進化研究に新たな視点をもたらすという。

 国際共同研究チームには、スペインのバレンシア大学、カナダのサスカチュワン大学とサスカトーン研究開発センター、韓国の安東大学の研究者も参加した。

 寄生バチは昆虫に寄生してその体を食べて成長し、最終的には昆虫を殺してしまうことが知られている。ウイルスもまた昆虫に感染して昆虫を殺すため、寄生バチやウイルスは農作物や森林を食い荒らす昆虫の防除にも利用されている。

 今回、研究チームはイモムシに感染する昆虫ポックスウイルス(EPV)が寄生バチに有毒なたんぱく質を作る遺伝子を持っていることを発見、PKF遺伝子と名付けた。このウイルスは寄生バチを殺すことで自らの宿主であるイモムシを守り、寄生バチとの間で宿主という自らの生存維持に必要な“資源”の獲得競争に勝つように進化したとみられる。

 同じイモムシを宿主とする寄生バチと昆虫ポックスウイルス(EPV)の間に、それぞれの生育環境である宿主という資源の確保を巡って進化的競争があることが明らかになった。また、PKF遺伝子は、ウイルスと昆虫との間や、異なるウイルスとの間でも遺伝子が受け渡される遺伝子水平伝播が起き、複数種のウイルスと昆虫に広く分布していることも分かった。

 これまで、寄生者と宿主は寄生能力とその対抗戦略を一対一の“進化的軍拡競争”によって獲得してきたとされてきた。これに対し研究チームは、今回の成果で「より複雑な生物間相互作用の中で進化的軍拡競争を論じる必要がある」として、進化学に新たな展開を促すと期待している。