ベトナム・メコンデルタで温室効果ガスを削減―水稲作と肉牛生産を組み合わせた複合システムで22%削減可能:国際農林水産業研究センターほか
(2021年8月19日発表)
(国)国際農林水産研究センターと(国)農業・食品産業技術総合研究機構、宮崎大学は8月19日、ベトナム・カントー大学と共同で、ベトナム農村地帯の温室効果ガス排出量を22%削減することに成功したと発表した。「水稲作」と「肉牛生産」の環境改善を別個に取り組むより、両者を上手に利用し合う方が新たな「複合システム」の削減効果が大きいことをみつけた。
ベトナム南部のメコンデルタ地帯は肥沃な低地が広がり、降水量も多く、ベトナム国内のコメ生産量の約半分を占める最大の水稲作地帯として知られる。最近は経済発展に伴って肉牛生産も増えている。
地球温暖化対策の国際的な取り組みの「パリ協定」では、温室効果ガスの削減対策として取り組みが遅れていた農村地帯からの排出抑制が課題になっていた。
水田からは、稲わらをすき込み利用することで後にメタンガスが発生する。ウシなどの反芻(はんすう)動物のゲップや糞尿からはメタンガスと一酸化二窒素ガスが排出される。これらが農業分野での温室効果ガスの主要部分を占めた。
研究グループは13年前から現地の水田の水管理、家畜の飼育管理、バイオガス利用などをそれぞれ単独で取り組んできた。今回は、稲わらを畜舎飼いの肉牛のエサとし、糞尿をバイオガスの原料として利用した後、水田に入れて肥料とするなど、農業資源を巧みに利用する「複合システム」として再設計し、メタンや一酸化二窒素の排出をどの程度抑えられるかを検証した。
まず、現地の農家が使う化学肥料や農薬の使用量、肉牛の飼料の投入量、水田の水管理、稲わら処理、家畜糞尿処理などの方法を明らかにし、そこから発生する温室効果ガスや、環境に与える物質の種類や量を確かめた。
専用システムと複合システムでは、どれだけ温室効果ガスの排出量が変化するかをライフサイクルアセスメント(LCA)で比較した。LCAは農業用の資材や製品が、生産から流通し、消費されて、最後に廃棄、リサイクルされるまでの全過程を通して、環境に与える影響を定量的に評価する手法だ。
その結果、複合システムは従来の専業システムと比べて温室効果ガスの排出量を22%削減できることを明らかにした。肉牛のエサとして稲わらを利用することで稲わらのすき込みが抑えられ、水田からのメタンガス発生量が削減できた。
エネルギー消費量では複合システムが22%少なく、水質汚染の原因となるアンモニアなどの発生量も14%少ないことが分かった。今後は複合システムと専用システムのコスト比較をまとめることにしている。