北極の島グリーンランドに降る雨の変動明らかに―温暖化の影響シミュレーションで判明:気象研究所
(2021年8月23日発表)
気象庁気象研究所は8月23日、北極圏に位置し温暖化が急速に進行している世界最大の島グリーンランドの近年の降雨の変動を数値シミュレーションにより詳細に解明することに成功、温暖化に起因する降雨量の増加が既に始まっていることを強く示唆する結果が得られたと発表した。
広い土地を覆っている氷の厚い層のことを氷床(ひょうしょう)と呼ぶ。グリーンランドは日本の面積の約5.7倍もの広さがあって大部分が北極圏に属し80%以上が氷床と万年雪に覆われている“氷と雪の巨島”。
ところが、現在その北極圏では温暖化が急速に進んでいて、気温上昇率が北半球の約2倍にもなっているといわれ、雨によるグリーンランドの氷床融解が世界の海面水位を上昇させる大きな要因になるのではとの心配が高まっている。
実際、グリーンランドでは氷床の表面を覆っている氷や雪の融解が頻繁に起こっていて、周辺の海洋に流出する水の量が急増しているとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は警告している。
また、グリーンランドでは氷床の最高点(標高3,216m)で今年の8月に観測史上初めて雪でなく雨が降ったと米国国立雪氷データセンターが発表している、と共同通信が伝えている。
しかし、北極域では雨量計に必須のヒーターを維持するための電力が得られないなどの難問があり、広大なグリーンランドの降水量を計測するのは難しく未だに実態把握に至っていない。
そこで、研究グループは国立極地研究所などと連携して開発した「NHM-SMAP」と呼ぶ気候モデルを使い事象を数式で表して予測する数値シミュレーションにより1980年から2019年にかけての長期にわたるグリーンランドの過去の気候計算を試み評価した。
グリーンランドは、かつてデンマークの植民地だった島で、デンマーク気象研究所の自動気象観測装置が沿岸部に多数設置されていることからその内の6つのサイトを抽出し各サイトで観測された降雨量とシミュレーションで得た値とを比較した。
その結果シミュレーションと観測された降雨量とが良く相関していることが判明、グリーンランドの氷床の降雨量の変動を詳細に調べることができた。
さらに、氷床全域について1980年から2019年にかけての降雨量の変化を解析したところ、全降水量(降雪量と降雨量の和)に占める雨の割合がほぼ全ての領域で増加傾向にあることが判明、温暖化に起因する降雨量増加が既に始まっていることを強く示唆する解析結果が得られたという。
研究グループは今後海外の研究機関とも協力してより詳細な調査に取り組むことにしている。