低炭水化物・高脂肪のケトン食―筋ジスの症状改善も:産業技術総合研究所
(2021年8月25日発表)
(国)産業技術総合研究所は8月25日、筋力が次第に低下していく遺伝性の難病「筋ジストロフィー」の症状を低炭水化物・高脂肪食を中心とした食事療法で改善できることが分かったと発表した。ラットを用いた動物実験で明らかにした。不可逆的な筋力低下のメカニズム解明や新たな治療法の開発に役立つと期待している。
今回研究の対象にしたのは、X染色体上にある遺伝子の変異が原因で起きるデュシェンヌ型筋ジストロフィー。発症すると運動機能の低下や歩行不全、呼吸・新機能不全などの症状が起きる難病だ。
研究では、ヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子に相当する遺伝子に変異を起こさせたラットを実験モデルとして用いた。ココナッツなどの種子に含まれる油脂の一種で、健康食品としても知られる中鎖トリグリセリドを含む餌を与え、このモデルラットの骨格筋機能が改善するかどうかを調べた。餌には、低炭水化物・高脂肪食を摂取して血中ケトン体濃度を上昇させる食事療法として知られる通常の「ケトン食」よりも炭水化物やたんぱく質を多くした。
ラットの離乳後に、この特別なケトン食と普通食を与えて3カ月目と9カ月目で筋力などを比較したところ、ケトン食を与えたラットの症状が改善していることが分かった。モデルラットの筋肉を摘出して調べた結果でも、ケトン食が筋委縮を抑制していることが明らかになった。デュシェンヌ型筋ジストロフィーに特徴的に見られる筋肉の壊死や線維化、炎症についても、ケトン食グループでは抑えられていた。
この結果から、産総研は「ケトン食が筋壊死の抑制のみならず、筋再生を促進することによって症状の進行を抑制している可能性がある」として、今後はヒトに対する有効性についても検討する。