傷が自然に消える自己修復機能を持つ防曇膜を開発―メガネ、板ガラスなど広範に使える、3年内に実用化へ:産業技術総合研究所
(2016年10月7日発表)
(国)産業技術総合研究所は10月7日、曇ることがなく透明で傷がついてもある時間経つと自然に傷が消えて元に戻る自己修復機能を持つ耐久性に優れた防曇膜を開発することに成功したと発表した。ガラスなどの透明な材料の上にコーティングでき、メガネや車両・建物の板ガラスなど防曇性が求められる広範な分野に使えるという。
産総研は、今後企業と協力して安全性の確認、自己修復するまでの時間の短縮などに取り組み、3年以内に防曇処理技術の実用化を目指す計画だ。
梅雨の時期など高湿度な環境では、ガラスの表面に微小な水滴が一面に付着して光の散乱や曇りが生じて透明さが著しく低下し前方が見えにくくなる。このため、さまざまな親水性の材料を表面にコートする防曇処理が行なわれている。
その例としては、紫外線照射によって表面に超親水性の二酸化チタンを塗布したり、二酸化ケイ素や酸化亜鉛の微細な層状構造を付ける、などの処理法があるが、塗布プロセスが複雑で大面積の処理に適さず、耐久性が劣り、傷が付くと防曇機能が失われてしまうといった弱点がある。
こうしたことから親水性と耐久性に優れた防曇膜が生産性良く作れる技術の開発が求められている。
産総研は、これまでに透明性が高く水などがつきにくい優れた付着抑制効果を示すシリコーンゲルを用いた膜を開発済みだが、今回水溶性ポリマーの一種ポリビニルピロリドン(PVP)と粒径がnm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)サイズの粘土粒子(AMP-ナノクレイ)からなるハイブリッドゲルに着目して自己修復機能を持つ防曇膜を実現した。
新防曇膜は、PVP、AMP-ナノクレイにアルデヒド官能化合物と呼ばれる成分を少量混合したハイブリッドゲルでできている。
PVPとAMP-ナノクレイを混合するとナノクレイ間に水素結合が形成されて粘着性と粘度が増加して透明な「PVP/AMP-ナノクレイハイブリッドゲル」ができる。このゲルをガラスや、プラスチックスなどの上に塗布して100℃で3時間以上乾燥させると目的の自己修復機能を持った透明な防曇膜が得られる。
研究グループは、膜をシリコン基板上に形成して外科用のメスで膜表面に傷をつけ自己修復性を調べているが、24時間経過すると傷が修復され始め48時間後には傷が完全に消失することを確認している。