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洪水被害に関する「適応の限界」を初めて定量的に評価―適応が完了する前に発生する被害大きい:芝浦工業大学/国立環境研究所

(2021年9月24日発表)

 芝浦工業大学と国立環境研究所の共同研究グループは9月24日、気候変動による洪水被害に対するさまざまな軽減策を実施しても被害が現在より増加してしまう、いわゆる「適応の限界」を世界で初めて定量的に評価したと発表した。軽減策が完了する前に発生する被害が大きく、地球上のほとんどの地域において「適応の限界」が生じるという。適応策を早期に決定、実施することが重要としている。

 気候変動に伴って今後増大が予想される洪水被害を低減するため、様々な適応策が計画・実施されている。こうした適応策の有効性についてはこれまで調査・研究されているが,適応策を実施しても被害が増加する「適応の限界」を評価した例はこれまでない。

 研究グループは全世界の地方行政単位(県や州など)をもとにこの洪水被害額を評価した。具体的には、気候モデルから推定される異なる温暖化レベルにおける浸水深の分布、適応目標に応じた洪水防護レベル、対象地域の経済状況をもとに被害額を計算した。

 評価対象期間を2020-2100年とし、洪水に対する適応策は2020-2050年の間に実施され,2051年には完了するとした。

 評価の結果、例えば温暖化の進行が極端なシナリオでは、洪水被害は現在より年平均983億米ドル増加するが、年に68億ドル投資することで年間740億ドルの洪水被害の増加分が軽減され、結果として洪水被害は現在よりも年間243億ドル増加すると推計された。

 温暖化のシナリオと適応目標の組み合わせによって異なるが,どのシナリオでも現在より洪水被害額は増加するという推計になった。

 今後高い経済発展が見込まれる地域では洪水被害の増加を大幅に抑えられるが、地域の経済状況に比し、適応策実施コストが相対的に高い地域では、適応による便益(被害の軽減額)が見合わないため適応策が実施されず、洪水防御のレベルが低いままになることが分かった。

 洪水防御のレベルがある程度高くなった地域でも、現在より被害は増える。その主な理由は、洪水を防御するための構造物を建設する間に発生する洪水被害が大きいためという。

 地球規模で効果的な適応策を実施するためには,早期の意思決定と国際的な資金援助が重要なことが示されたとしている。