英文文章の読みやすさを、視線の動き情報などから計測―将来の英語教材開発や選定、読解の指導に役立てる:筑波大学
(2021年9月27日発表)
筑波大学人間系の名畑目真吾(なはため しんご)助教は9月27日、英文文章の読みやすさ(難易度)を計るために、目の動き(視線情報)を使ってどのくらい読解に労力を割いているか(処理労力)を計測し、既存の読みやすさの指標との関連を検証したと発表した。「単語の長さ」と「文の長さ」から読みやすさを計る伝統的な指標より、コンピューター技術を使った新たな指標が予測に優れていることが分かった。処理能力が正確に把握できれば、将来、適切な英語教材の開発や選定、読解指導などに応用できるものとみている。
英文の読みやすさを調べ、評価する方法(指標)はこれまで数多く提案されてきた。伝統的な指標としては、文章に含まれる「単語の長さ」と「文の長さ」の単純な2つの特徴でみていた。
最近はコンピューター技術による自然言語処理を活用し、より多様な文章の特徴を評価できる新たな手法が登場した。しかし「読みやすさ」の研究は、文章の「理解のしやすさ」という一側面だけが注目され、「処理のしやすさ」については問題にされてこなかった。
そこで名畑目助教は、文章を読む際の目の動きの「視線情報」を計測し、学習者がどのくらい読解に労力を割いているか(処理能力)を割り出し、伝統的な読みやすさの指標と比較することにした。
日本語が母語の人の英文読解時の視線計測データを調べ、さらにオランダ語が母語の英語学習者の公開されている視線計測データも使った。
①視線が一か所に止まっている時間(平均注視時間)、②注視と注視の間の視線の素早い移動(視線移動の長さ)、③読み取りや読み飛ばしに関すること、の計3タイプのデータを分析した。
また読解した文章については、既存の複数の指標を使ってその読みやすさを評価した。
コンピューター技術を使うことで、より多様な文章の特徴を評価する新しい指標が得られた。
それは、①使用頻度や認知の困難度など語彙の難しさに関わる特徴(語彙の洗練度)、②文に含まれる「節」「句」の長さや複雑さなど文構造の複雑さの特徴(文の統語的特徴)、③文と文とのつながりなどである。
こうして文章の読みやすさの指標をもとに視線計測データを予測する分析をしたところ、読みやすさの指標は読解中の視線パターン(処理労力)をある程度予測することができた。
コンピューター技術による新たな指標は、予測に優れたケースが複数みつかり、読解の処理労力をより正確に反映させられることも分かった。しかし既存の読みやすさの指標は、視線計測データの全てを予測することはできず、新たに読みやすさの指標を開発する必要があるという。
今後は文章の個別の言語的特徴が、学習者の読解プロセスとどのように関わっているかを詳細に調べ、正確で理論的な英文の読みやすさの評価方法や、英文を読解する際の認知プロセスを深く理解できることを目指すことにしている。