秋の味覚ニホングリのゲノムを解読―7億2千万塩基対でできていること判明:かずさDNA研究所/農業・食品産業技術総合研究機構
(2021年9月28日発表)
写真:ゲノムを解読したクリ品種「銀寄(ぎんよせ)」
(農研機構提供)
(公財)かずさDNA研究所と(国)農業・食品産業技術総合研究機構、イタリア・トリノ大学は9月28日、共同で日本の秋の味覚の一つである「ニホングリ」のゲノム(全遺伝情報)を解読したと発表した。
クリは北半球の暖帯から温帯に広く分布し、アメリカグリ、ヨーロッパグリ、チュウゴクグリ(中国グリ)、それにニホングリの4つに大別される。日本列島では縄文時代に栽培が始まったとされ、その証拠に日本最大級の縄文集落跡として特別史跡になっている約5千年前の三内(さんない)丸山遺跡(青森県)から多くのクリの実が出土している。
平安時代になると京都の丹波地方で盛んに栽培されるようになり、各地で品種改良が進んで今のような大きくて味の良いニホングリが実現した。
しかし、品種改良の迅速化に重要なゲノム解析は天津甘栗として知られるチュウゴクグリでは行なわれているもののニホングリではこれまで実施されていなかった。
そこで、研究グループは今回17世紀から西日本を中心に栽培されている系統で丹波栗の一種として知られるブランド「銀寄(ぎんよせ)」のゲノム解読に取り組んだ。
ゲノムは4種類の塩基性物質(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)でできているDNA(デオキシリボ核酸)で構成される高分子。その膨大な数にのぼる塩基の配列を自動で効率良く読むことができる装置をシーケンサーという。
研究ではニホングリの遺伝情報が詰まっている12本の染色体の約7億2千万にのぼる塩基対からなるゲノム配列を高精度に解読することに成功した。
さらに、114種類の植物のゲノム配列と比較したところニホングリのゲノム構造はリンゴなどのバラ目(もく:生物学における基本的階級、科の上)の植物と類似していることが分かった。
クリは自分自身の花粉では受粉しづらい自家不和合性という性質が強い。そのため、増殖や品種改良を行なうには混殖といって同じ場所に相性の良い品種を植える必要があるが、今後さらにゲノム解析を進めることで品種の判定法が開発されるようになれば相性の良い受粉樹の選定が今よりずっと容易になるものと見られる。
研究グループは「ニホングリ、チュウゴクグリ、アメリカグリ、ヨーロッパグリの4種間の交配で高精度な遺伝子地図を作ることができる。病害虫抵抗性など優れた形質を持つ遺伝子を特定しながら新しい品種の開発が行えるようになることが期待される」と今後の展望を語っている。
得られたゲノム情報は、かずさDNA研究所が運営する「Plant GARDENデータベース(https://plantgarden.jp)」で閲覧できる。