アンモニア合成に新触媒開発―300℃の低温でも高い活性:科学技術振興機構/東京工業大学/高エネルギー加速器研究機構
(2016年10月8日発表)
JST戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は10月8日、窒素肥料の原料となるアンモニアを300℃という低温下で従来の10倍以上効率よく合成できる新触媒を開発したと発表した。nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)単位の微細なルテニウム粒子を使った触媒で、1カ月以上安定的に使える。水素エネルギーを液化して運べるとして注目されるアンモニアの合成工程の大幅な省エネ化につながる。
東工大の細野秀雄教授、原亨和教授らと高エネ研の阿部仁准教授らの研究グループが開発した。
新触媒は、窒素を含む無機化合物「カルシウムアミド」の上に、希少金属の一つであるルテニウムをナノ粒子にして固定し作成した。カルシウムアミド自体は熱に弱く、340℃程度で分解してしまうが、ルテニウムを表面に固定してやると長時間にわたって安定的に触媒活性を示すことがわかった。
新触媒を用いて水素と窒素を反応させたところ、300℃程度の低温環境下でも従来のルテニウム触媒の10倍以上も高い活性を示し、アンモニアが合成できた。さらに、ルテニウムを固定するカルシウムアミドにバリウムを3%添加した触媒は、700時間(約1カ月)以上にわたって活性がほとんど低下せず、極めて安定的に働くことも確認できた。
大気中に無尽蔵にある窒素と水素を反応させてアンモニアを合成する技術は約100年前にハーバーとボッシュが開発、窒素肥料などの生産に欠かせないものとなっている。触媒にはアルカリ金属などを添加した鉄やルテニウムが用いられているが、300℃以下の低温領域で効率よく働く触媒はなかった。そのため合成反応には高温(400~500℃)・高圧(100~300気圧)の環境が必要とされ、省エネ化が難しいとされていた。
アンモニアは10気圧で加圧すれば室温でも液体になり多量の水素を蓄えられるため、水素エネルギーの運搬手段としても注目されている。このため今回の成果は窒素肥料の生産だけでなく、水素エネルギー社会の実現にも貢献すると研究グループは期待している。