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熱帯雨林の樹木フタバガキから乾燥応答遺伝子の増加を発見―気候変動による異常乾燥環境に強い樹種作りに応用へ:横浜市立大学/国際農林水産業研究センターほか

(2021年10月7日発表)

 横浜市立大学木原生物学研究所と(国)国際農林水産業研究センターなどの研究グループは10月7日、マレーシア森林研究所のフタバガキ科樹木のゲノム(全遺伝情報)を解読した結果、熱帯雨林の樹木に乾燥応答遺伝子が増加していることを見つけたと発表した。気候変動で今後、熱帯雨林の異常乾燥が予想されるだけに、この遺伝子が熱帯雨林の保全や持続可能に貢献できるものと期待している。金沢大学、(国)理化学研究所などとの共同研究となった。

 東南アジアの熱帯雨林には明確な乾季がなく、年間を通じて多雨に恵まれている。ところが気候変動によって将来乾燥の影響が増えるとの心配もあり、森林への影響が懸念されている。

 この地域を代表するフタバガキ科の樹木は、建材のラワン材として日本などに大量に輸出され、現地の経済を支えてきた。

 研究グループは気候変動による樹木への影響を探るため、フタバガキがどんなDNA配列と遺伝子を持っているかを次世代シーケンサーで分析し、3億4,000万塩基対のゲノム配列を決定した。その中の4万4,000個の遺伝子は、カカオやシロイヌナズナの遺伝子と共通の祖先を持つと見られる。カカオとフタバガキが分岐したのは1億年近く前で、フタバガキの全ゲノム重複は約7,000万年前の白亜紀末期と推定される。

 両者の遺伝子の並びを比較して重複する遺伝子を分類すると、シロイヌナズナ等で乾燥応答に関与する遺伝子とゲノム全体が倍化する全ゲノム重複の形跡があった。

 実験によって確かめると、乾燥に応答して発現が上昇する遺伝子は、ゲノム重複によって重複している遺伝子が多かった。多雨環境でも樹種によっては乾燥に反応する応答遺伝子が多数重複を維持していた。

 重複遺伝子とは1つの遺伝子がコピーされて2つ以上の遺伝子になることで、遺伝的多様性を高め、新しい機能を作り出すなど、生物の進化や環境適応能力の獲得に重要な役割を果たしている。

 研究グループは、「まるで暗い洞窟の中で暮らす魚が目を失うように、水が豊富な熱帯雨林の植物はすでに乾燥応答遺伝子を失くした可能性もあると考えていた。それだけに予想外の発見だった」と驚いている。

 マレーシアはエルニーニョ現象と関連して、数年に一度大規模な乾燥が起こることが知られており、こうした不定期な乾燥が、乾燥応答遺伝子の存続に重要な役割を果たしていたとみられる。

 東南アジア熱帯地域は気候変動により、今後、乾燥の影響が増加すると予想される。この発見を生かし、乾燥に適応した個体を選抜、育種することで持続的フタバガキ林業に貢献する可能性が生まれ、熱帯雨林の保全への応用も期待されている。