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岡山県産鉱物「逸見石(へんみいし)」から新奇な磁性を発見―特徴的な結晶構造が量子力学的なゆらぎ生み出す:東北大学/岡山大学/東京工業大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2021年10月18日発表)

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天然の逸見石結晶
©東北大学多元物質科学研究所

 東北大学、岡山大学、東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、福井大学などの共同研究グループは10月18日、岡山県で産出する逸見石(へんみいし)が量子力学的なゆらぎの強い反強磁性体であることを発見したと発表した。

 日本において初めて確認された鉱物は「日本産新鉱物」と呼ばれ、これまでに140種を超える新鉱物が見つかっている。太古からの地球の活動によって作られたこうした天然鉱物は、人工合成された無機固体物質と比べて結晶構造に多様性があり、物性も多様で、物質科学者の関心を集めてきた。しかし、希少さゆえに、これまで固体物理学の視点で研究された例は多くなかったという。

 研究グループは今回、日本産新鉱物の一つである逸見石に着目し、最先端の実験観測装置を使ってその解析に取り組んだ。

 逸見石は、世界でも岡山県高梁(たかはし)市の布賀(ふか)鉱山でのみ産出するカルシウム、銅、ホウ素、水素、酸素から成るホウ酸塩鉱物の一種で、その結晶は美しい濃紺やすみれ色を呈する宝石としても知られる。磁性を担う二価の銅イオンが歪んだ二次元正方格子を作ることから、研究グループは低次元性を持つ磁性体として注目した。

 放射光X線回折をもちいて結晶構造を解析した結果、逸見石は従来報告されていたのとは異なる結晶構造を持つことが判明、また、明らかになった新たな結晶構造とそれに基づく理論計算から、量子力学的なゆらぎが強く現れる磁気スピン格子の性質を持つことが分かった。

 さらに、磁化測定と極低温までの比熱測定を実施した結果、反強磁性相互作用を持つものの、ゼロ磁場中においては絶対温度0.2度の極低温まで,スピンが整列する磁気秩序が起こらないことが分かった。

 研究グループは、逸見石の結晶構造と磁気スピン格子の幾何学的な特徴で生じる量子力学的なゆらぎが、磁気スピンの秩序化を抑制したと考えられるとしている。

 量子力学の効果が強く現れる低次元磁性体は量子コンピュータなどへの応用が期待されるという。