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トンボの初期進化の過程と分岐年代を高精度に解明―大繁栄を遂げた昆虫類全体の進化の解明に期待:筑波大学

(2021年10月29日発表)

 筑波大学生命環境系山岳科学センターの町田龍一郎客員研究員らが参加する国際研究グループは10月29日、これまで不明だったトンボの進化の分岐年代などを高精度に導き出すことに成功したと発表した。これまでにない大量の遺伝情報の解析と化石証拠が決め手になった。動植物種の4分の3にまで大繁栄を遂げた昆虫類全体の系統進化の解明にもつながるものと期待されている。

 身近な昆虫として親しまれているトンボは、全体で6,400種類にも上る。分類上は「均翅(きんし)亜目」「不均翅亜目」「ムカシトンボ亜目」の3つに分けられる。

 均翅亜目はイトトンボやカワトンボの仲間で、前後4枚のハネの形が似ていて、止まるときはハネを背中の上で閉じる。不均翅亜目は普通のトンボやヤンマ類で、後ろハネが幅広く前ハネと形が違う。止まっている時もハネを広げている。

 ムカシトンボ亜目は、進化上でハネを獲得した有翅昆虫だが、最初に現れた系統群「旧翅類」に属している。世界でも3種類だけが知られ、そのうちの一つは日本の固有種。今回の研究には日本から持ち寄ったムカシトンボが解析に使われた。ハネの形や閉じ方は均翅亜目に近く、体の特徴は不均翅亜目に近いという双方の特徴を併せ持っている。

 これらの「亜目」が3億年以上前から進化の過程で、何時、どのように分化したかなどは、これまでの形態学的研究や分子形態学的研究では正確には掴(つか)めなかった。

 今回は昆虫類全体の系統進化の解明を目指す国際研究「1,000種昆虫トランスクリプトーム進化プロジェクト(1KITE)」の中の一つ「トンボ目サブプロジェクト」の活動として取り組んだ。

 世界6か国、11機関の研究者18人が共同し、105種のトンボの2,980遺伝子について細胞内の全転写物(RNA)を網羅的に解析した。うち29種は日本が提供している。

 トンボの系統進化解明の決め手は大量遺伝情報が取得できたことだ。さらに絶対年代を掴むため年代の特定された化石を、進化の道筋となる系統樹に載せる「化石証拠」によって分岐年代を導き出した。

 その結果、現在のトンボ目に至る系譜の最初は、古生代石炭紀(約3億6,000万年前)からペルム紀(約3億年前)に出現した。同じ祖先を持っていたが三畳紀(さんじょうき、約2億年前)の環境変化に応じて生理的、形態的に分化し、均翅亜目と不均翅亜目に分かれたことがわかった。ムカシトンボ亜目は1科1属で、三畳紀に出現して以来、ずっと分化しないで単一のまま続いている。

 またトンボ目の出現以降、現在まで分岐が系統的に現れなかった長い空白期を持つトンボの存在も明らかになった。これは多くの系統が出現し、繁栄したものの途中で絶滅したものと推察される。

 今後は、系統進化の過程でトンボがどんな形態や行動、生態に変化したかの生物学的な側面を探り、種の数で動物全体の75%を占めるほどに大繁栄を遂げた昆虫類の初期進化の構図を描きたいとしている。