ランニングに認知機能を高める効果―脳の活動の活発化を詳細に調べ判明:筑波大学
(2021年11月25日発表)
筑波大学は11月25日、少しきつめのランニングには快適気分と共に脳の活動を活発にして認知機能を高める効果があることが分かったと発表した。全身をリズミカルかつダイナミックに使うランニングが脳にどのような影響を与えているかその詳細を明らかにしたという。高齢者や低体力者にも効果は生じるのか、さらなる研究が期待される。
人類の祖先はおよそ200万年余り前から直立二足の長距離走を武器にして動物を追いかけまわして捕まえる狩猟を行ってきた。「人類は走るべく進化した」という進化論的仮説もあるほどでランニングは人類の生存に重要な役割を果たしてきた。現代もブームと言われるまでに多くの老若男女がランニングを楽しんでいる。
さらに、近年は運動が体力の面にだけでなく脳にも作用していることが明らかにされつつある。しかし、ランニングの研究の多くはまだ試験を行いやすいペダルを踏むペダリング試験の域にあるのが実情といわれる。そのため、全身をリズミカルかつダイナミックに使う実際のランニングがヒトの脳にどのような効果を及ぼすのかその詳細な脳内機構は分かっておらず知見が不足している。
研究グループは、これまでの研究で運動中の気分の好転が人間の認知機能を司っている脳の前頭前野(ぜんとうぜんや)の活動に好影響を与えることを掴(つか)んだことからその成果をベースにして今回の研究に取り組んだ。
実験は、トレッドミルと呼ばれる屋内でランニングを再現する装置を使い運動の強度を厳密に制御して中強度(少しきつめ)に相当するランニングが被験者の前頭前野の認知機能や快適気分に与える影響と、その背景にある脳内神経機構とを近赤外光を利用して捉える「機能的近赤外分光分析法(fNIRS)」という方法により計測した。
実験には、男女合わせて26人の大学生・大学院生が参加、トレッドミルで各人に10分間の中強度のランニングをしてもらい、ランニングが前頭前野の認知機能に及ぼす影響を調べた。
その結果、少しきつめのランニングを行なうと、気分の好転と認知機能の一つである実行機能(思考や行動をコントロールする機能)の向上が共に起こることが分かったという。
研究グループは今回確認された運動効果が高齢者など他の対象者でも得られるかさらに検討していくことにしている。
また、「低体力者や運動嫌いの方でも続けられるようなスローペースのランニングでも効果が得られるかという点(の解明)も、研究成果を社会全体に還元する上で重要な検討課題」と話している。