表面積が大きいカーボンナノチューブの開発に成功
:産業技術総合研究所

 単層カーボンナノチューブ(単層CNT)を電極にした高性能キャパシター(蓄電装置)の開発を進めている(独)産業技術総合研究所は1月4日、単位質量当たりの表面積(比表面積)が無処理のものより約1.8倍大きい単層CNTを作ることに成功したと発表した。
 単層CNTを高温で酸化し、チューブの先端や側壁に微細な穴を開ける「開口処理」を行うことで表面積を増した。このCNTを用いて試作したキャパシターの性能は、従来のものを凌いでおり、電気自動車用などの新しい蓄電デバイスへの応用が期待される。
 キャパシターは、化学反応を利用して電気を貯めるバッテリー(電池)とは異なり、電気を電子のまま蓄えるコンデンサー(蓄電器)の別名。ラジオやテレビなどには昔から使われていたが、素早い充放電が可能なことから、急速予熱電源などの新用途向けには容量の大きなものが求められる。それには、蓄えられるエネルギーを増やす高エネルギー密度化が重要で、比表面積増大はそのための課題だった。
 同研究所は、既に優れた単層CNT合成法(スーパーグロース法)や高純度の単層CNTが垂直方向に林のように並ぶ配向構造体(CNTフォレスト)を開発してきたが、今回は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ナノテクノロジー・カーボンナノチューブキャパシター開発プロジェクト」の一環として比表面積を向上させる処理法などキャパシター電極への応用研究を進め、今回の成果を得た。
 研究者は、スーパーグロース法で作成した他の単層CNTよりは直径が太く、純度が高いCNTフォレストを空気中で高温酸化する開口処理を行い、比表面積増大を試みた。その結果、1g当たりの表面積を2,240m2にまで増やすことができた。これは、従来(1g当たり1,250m2)の約1.8倍で、市販の多孔質シリカ(同750m2)や活性炭(同1,700m2)より大きい。
 形状は、繊維状で、処理温度を変えることで開口直径を調節、チューブに内蔵する物質を選択できる。
 また、今回開発した材料のキャパシター電極としての性能を調べたら、従来の活性炭電極のキャパシターに対して、エネルギー密度は約1.5倍、パワー密度は約2.8 倍あった。
 同研究所は、今後この高比表面積単層CNTの用途開発促進のため、企業・団体などに研究用試料をグラム単位で供給すると共に、NEDOプロジェクトの中で日本ゼオン(株)と共同で、材料のCNTフォレストの工業的量産技術を開発、これを用いて日本ケミコン(株)と共同で高性能キャパシターを開発する。

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開口処理後の単層CNTの透過型電子顕微鏡写真。1nm(ナノメートル)は10億分の1m(提供:産業技術総合研究所)