電子と原子の超高速運動の同時計測に世界で初めて成功
:筑波大学/科学技術振興機構/理化学研究所/高輝度光科学研究センター

 筑波大学は1月6日、(独)科学技術振興機構、(独)理化学研究所、(財)高輝度光科学研究センターとの共同研究で、兵庫県にある大型放射光施設「Spring-8」の高輝度X線を使って電子と原子の超高速運動の同時計測に世界で初めて成功したと発表した。
 物質に光を照射すると性質が変化する。これを「光照射効果」と言い、光記録として利用できることから内外で精力的な研究が行われている。また、極端な場合には、光照射によって原子の移動が生じ性質の違った別の物質に変化する現象も起こり、これを「光誘起相転移」と呼んでいる。
 これまでも光記録のメカニズムを明らかにするため、原子や電子の超高速運動を調べる研究が行われてきた。しかし、異なる研究者が異なる試料に対して計測していたため、原子の超高速運動と電子の超高速運動との関連には未解決の問題が残っていた。
 今回、研究グループは、SPring-8を用いた新しい計測法により、光誘起相転移を示すコバルトイオンと鉄イオンからなる化合物「Co-Feシアノ錯体」において、電子の運動が100億分の1秒の時間で原子間距離を一様に変化させることを発見した。
 同時計測では、SPring-8のビームラインから作り出された強いX線パルス(パルス幅は、100億分の4秒)を「原子を見る光」として利用した。また、固体レーザーの一種であるチタン・サファイア・レーザーと再生増幅器で発生させたレーザーパルス(パルス幅は、10兆分の1秒)から同時計測の要になる2つの光「励起する光」と「電子を見る光」を作った。測定試料には、「NCF90」、「NCF70」と呼ばれるナトリウム(Na)とコバルト(Co)と鉄(Fe)からなる化合物の薄膜を使った。
 実験の結果、NCF90のデータを見ると、「励起する光」により電子が移動し、それにより、原子間距離が一様に大きくなることが分かった。また、「原子を見る光」で時間分解された回折パターンを測定すると、NCF90 薄膜では原子間距離が一様に増加し、NCF71薄膜では一様に減少することが分かった。
 今後、この新しい手法を用いて光励起による電子の超高速運動と原子の一様な超高速運動との関連を解明できれば、光記録のメカニズムが明らかになるものと期待される。特に光記録現象は、CD(コンパクトディスク)やDVD(光ディスク)といった実用デバイスで利用されており、このシステムはそれらの性能向上に大きく貢献するものと期待されている。

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