マウスの体内で成熟させた豚精子で子豚が誕生
:農業生物資源研究所/麻布大学

 (独)農業生物資源研究所は2月2日、麻布大学と共同で、子豚の精巣を免疫不全マウスに移植して成熟させた精子を豚の成熟卵に注入して受精卵にし、雌豚に移植して正常な子豚を誕生させることに世界で初めて成功したと発表した。
 ほ乳動物では、これまで雄の成熟した精子を採取して、超低温で凍結して保存し、加温(融解)後に人工授精に利用してきた。しかし、これらの凍結保存法は、成長した動物が対象で、未熟な個体からは精子の採取ができなかった。
 今回開発した手法は、子豚の精巣組織を免疫不全マウスに移植し、その移植組織の中で、未成熟精子を発育・成熟させ、繁殖に利用するというもの。精巣組織には、精子の元になる精祖細胞(精原細胞)が含まれ、これが増殖・成長して精子になる。
 研究グループは、[1]生後6~15日齢の子豚の精巣組織を細かく切って、免疫不全マウスの皮下組織に移植した。移植後118~280日に移植組織片が発育し、成熟した精子が回収された。[2]移植後133~280日に得られた精子を、別に用意した豚の体外成熟卵に「顕微授精」と呼ばれる方法で注入したところ、受精が確認された。[3]借り腹の豚の卵管に、顕微授精直後の受精卵を移植した結果、23頭の借り腹の豚の内4頭が妊娠し、その内2頭が分娩し、合計6頭(雌1頭、雄5頭)の子豚を出産した。生まれてきた子豚は健康に発育しており、一部は性成熟に達した。
 これまで異種の動物に移植する異種移植で出産した例は、ウサギではあったが、豚では今回が初めて。
 新しく開発した技術は、家畜のほか、野生動物にも応用可能で、未成熟の個体や事故などにより死亡した希少な雄動物への適用も考えられる。このため、この技術は、絶滅が危惧されるアジアの貴重な豚品種など遺伝資源の新たな保存・利用技術の基盤技術として期待されている。

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