血栓ができず、血管内皮形成に優れたステントの開発に成功
:物質・材料研究機構/東京大学/ニプロ

 (独)物質・材料研究機構は2月16日、東京大学、ニプロ(株)と共同で、狭心症など虚心性心疾患の治療に使われる優れた「薬剤溶出性ステント(DES)」の開発に成功したと発表した。
 ステントとは、血液の流れが詰まった場合や血管が狭窄した時に、血管の中に入れて内側から血管を広げ、血液の流れを良くする筒状の器具のことをいう。
 狭心症や心筋梗塞など血液の流れの不足などによって生じる虚血性心疾患では、主要な治療法にDESが用いられている。しかし、我が国で現在行われている年間約15万症例の内、いったん拡張した血管内腔が再び狭窄する再狭窄が20~40%の症例に生じており、再度の手術を必要とすることが最大の問題となっている。
 現在使われているDESには、薬剤を徐放(薬効を長時間にわたって持続するため内容成分を徐々に放出すること)するための器具の材料(高分子マトリックスと呼ばれる)や薬剤にまだ改良すべき課題があるとされている。
 このため、抗血栓性(血管内を流れる血液が固まらない機能)と血管の内皮形成を促す機能を合わせ持ち、副作用の少ない薬剤を徐放することが可能なDESの開発が望まれていた。
 今回の研究では、抗血栓性と血管内皮細胞接着性を示す「クエン酸架橋アルカリ処理ゼラチン高分子マトリックス」という新材料を作り、薬剤として臨床実績のある「タミバロテン(Am80)」を組み込んでステントに搭載した「Am80溶出性ステント」を開発した。
 新しいAm80溶出性ステントを用いて抗血栓性の評価や徐放試験などを行った結果、ステント拡張後の炎症反応が強い1~2週間において多くのAm80が徐放され、薬剤徐放は8週間にわたって持続することが明らかになった。また、調製したAm80溶出性ステントを、ブタの冠動脈へ2週間入れて試したところ、良好な血管内皮の形成が認められた一方で、血栓は全くできていないことが分かった。
 今回開発したDESは、現在使用されているDESを超える安全性・有効性を持っているものとみられている。今後は、臨床実験に向けたデータの蓄積と関連企業との連携により、Am80溶出性ステントの実用化に向けて開発を進める予定。
 現在、我が国で使われているDESの90%以上は海外企業の製品であるため、日本独自の基盤技術を基に開発された新しいDESは、国際競争力を持つ医療機器の創出にもつながるものとして期待されている。

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