技術試験衛星「きく8号」で津波データ伝送実験
―高知沖40kmに計測器、地震時にも情報確保へ
:宇宙航空研究開発機構/情報通信研究機構/東京大学など

 (独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月25日、(独)情報通信研究機構や東京大学地震研究所などと共同で海上のブイに設置した津波計のデータを、技術試験衛星「きく8号」で茨城県の地上基地局に送る実験を始めたと発表した。東日本大震災では停電などにより陸上の通信網が寸断されて津波のデータが送れなくなってしまったが、衛星を利用することでそうした非常時にも対応できるようにする狙いだ。
 実験では、カーナビでおなじみのGPS(全地球測位システム)機能を備えた津波計を高知県室戸岬沖約40kmの海上に浮かべた。センチメートル単位で測定した波浪の高さを、測定地点のデータとともに、日本の上空3万6,000kmの静止軌道を回る「きく8号」を経由して情報通信研究機構の地上基地局「鹿島宇宙技術センター」に送る。
 海上に浮かべたブイに取り付けた津波計から長期間にわたって連続的にデータを衛星に送り続けるのには、衛星に向けるアンテナの指向性の向上や通信機器の省電力化など解決すべき課題が多かった。今回、実験に用いる「きく8号」は、テニスコートほどもある大型の展開アンテナを2台備えており、微弱な電波もとらえられる。このため、海上の津波計から送る電波の出力を小さくでき、無指向性アンテナの利用や省電力化が可能という。
 GPS付きの津波計は、東日本大震災以前から設置されていたが、波浪の高さなどをセンチメートル単位で精度よく測定するのには、あらかじめ緯度・経度・標高の明らかな陸上の基準局から送られる大量のデータを必要とした。このため、津波計を設置できるのは、陸上の基準局から20km以内に限定されるなどの課題があった。
 これに対し、今回の技術では、衛星のサービスエリア内であれば距離の制約もなくなり、精度と速報性が要求される津波警報に必要な100kmを超す沖合での観測にも対応できるようになるという。

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技術試験衛星「きく8号」。端から端まで40mもの太陽電池と、1枚19m×17mのテニスコートほどの広さの大型展開アンテナ2枚を持つ世界最大級の静止衛星(提供:JAXA)