動作電流10~100倍、新構造のトンネルFET開発
―電子情報機器の消費電力低減に向け前進
:産業技術総合研究所

開発に成功した新構造トンネルFET断面の透過電子顕微鏡像(提供:産業技術総合研究所)

 (独)産業技術総合研究所(産総研)は6月10日、電子回路の低消費電力化が期待できる新構造のトンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)を開発したと発表した。現在の集積回路(LSI)に使われている電界効果トランジスタ(MOSFET)よりも低電圧でオン・オフの切り替えができるトランジスタで、従来のトンネルFETよりも10~100倍の動作電流を得た。今後、動作電圧のいっそうの低減や動作電流のさらなる増大などを進め、実用化を目指す。

 

■チャネルと電極の構造を工夫

 

 電子情報機器で処理する情報量の増大に伴い機器の消費電力低減が求められているが、現在の電子回路を構成するMOSFETの低消費電力化は限界に近づいている。MOSFETとは異なる原理で動作するトンネルFETは、この限界を突破できる素子として期待されている。しかし、MOSFETに比べて動作電流の小さいことが課題になっている。
 (株)富士通研究所、(株)東芝、(株)日立製作所、ルネサスエレクトロニクス(株)、(株)アルバックの5社と産総研の研究者らからなる連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセンターのチームは今回、「合成電界効果トンネルFET」と名付けた新構造の素子を作製した。
 トンネルFETは、電極(ゲート電極)に電圧をかけると、電界の影響でトンネル接合部と呼ばれる部分の障壁が薄くなり、電子がトンネル効果で障壁を通り抜けてトランジスタに電流が流れる仕組み。この原理により低電圧での電流のオン・オフの切り替えができる。
 研究チームは定められたゲート電圧でより強い電界をかけられるよう、チャネル(電子の流れる道)と電極の構造を工夫した。その結果、これまでを大きく上回る電流をトランジスタに流すことに成功したという。引き続きプロセスの最適化を進め、さらなる低電圧動作の実現を目指したいとしている。

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