(独)産業技術総合研究所は1月20日、銅(Cu)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)から成る、インジウム(In)を含まないCuGaSe2薄膜太陽電池が動作するうえでの基本構成になっているヘテロp-n接合の形成メカニズムを解明したと発表した。新しいデバイス構造の提案や高性能化に向けた研究開発の加速が期待できるという。
■電子線誘起電流法で観察
Cu、In、Ga、Se製の半導体を用いた太陽電池を一般にCIGS太陽電池と呼んでいる。軽くフレキシブルで放射線に強い太陽電池を作れるなどの特徴があり、電池パネルを設置しにくい場所での使用や宇宙環境での利用などが期待されている。
Inを含まない今回のCuGaSe2薄膜太陽電池はこのCIGS太陽電池の一種。これまでは高い光電変換効率を得ることは難しかったが、産総研では最近変換効率10%以上を達成した。今回はこれを用いて、電池形成に欠かせないp-n接合の形成メカニズムの解明に取り組んだ。
CuGaSe2は、正の電荷を持つ正孔が移動することで電流が流れるp型半導体であり、負の電荷を持つ電子が移動するn型半導体はできていない。従って同じ材料によるp-n接合(ホモp-n接合)は作れないため、バッファ層に用いている硫化カドミウム(CdS、n型半導体)との間で異種材料同士のヘテロp-n接合が形成されているものと考えられていた。
ところが、電子線誘起電流法という方法で観察したところ、p型CuGaSe2層とn型CdS層界面にはp-n接合は形成されず、p型CuGaSe2層表面に存在するCu欠乏異相層(構成元素の比率が異なる層)がn型層として働き、ヘテロp-n接合を形成していることを突き止めた。
この発見により、現在製造されているCIGS太陽電池よりも広禁制帯幅を持つ新しい太陽電池デバイス構造が提案でき、エネルギー変換効率の向上といった高性能化に向けた研究開発の加速が期待できるという。
CuGaSe2太陽電池のデバイス構造と断面の電子顕微鏡写真(提供:産業技術総合研究所)